第241期 #8
「一緒に帰らねーの?」
「は?」
下足箱からスニーカーを取り出そうとして、声の主の方を見る。
「一緒に帰るけど?」なに言ってんの?
「ちげーよ。俺じゃなくて彼女と。付き合ってんでしょ?」
スニーカーを履きながら「あぁ、そういうこと」と返す。
「帰る方角違うからね」そう言って友人を見たら、「あぁそう……」って返ってきた。
「中島くんは?」
「帰ったんじゃない?」
「ねぇ、付き合い始めてから一度も一緒に帰ったことないよね?」
下足箱に上履きを入れながら親友が言う。
「だってさぁ」と言うと、「なに?」と返ってきた。
「方向違うのに、一緒に帰るとか非効率じゃない?」
「は?」
「ねぇ」
名前を呼ばれたわけではない。
誰もいない廊下で声をかけられたのだから自分だろうと思って振り返った。
「あ〜」名前がわからないことに気が付いた。中島の彼女の友達だってことだけ分かる。
「中島くんの邪魔しないで!!」
なんで怒ってんの?
「え〜っと、話が見えないんですけど……?」
「はぁ?」
余計に怒らせたみたいだったが、彼女が一呼吸した。
「あなたがいつも中島くんと一緒だから、中島くんアキのこと……」
あぁ、そういうことか。
「それは、そっちも同じじゃん」
「私のせいだっていうの?」
「俺のせいでもないけど」
彼女はムスッとして俺を睨みつける。そんな顔されても困る。
「アレはアレでうまくいっているみたいだから、外野がどうこう言うべきじゃないんじゃない?」
そう言って俺は彼女に背を向けて歩き出した。
ただ、彼女にそんなことを言っておきながら、想像していた彼氏と彼女ではないふたりに、モヤモヤ、ヤキモキしているのは俺も彼女も同じだ。
付き合っていたらもっと一緒にいたいとかないのか?
「素敵なお式だったね」
「うん」
「きっと好きだったんだよね、高校の時からずっと」
あのふたりの話になると、必ず高校生の時の話になる。数年前に再会し、付き合い始めたって知ったあの日からずっと。
「そんなに好きなら付き合えばいいのに、って言ったよ俺」
「私も言ったよ〜」
「で、ふたりとも「好きじゃない!!」って言うでしょ? 意識しまくりなのに」
可笑しくてふたりで笑う。
「私も結婚しようかな〜?」彼女がこっちを見る。
「結婚式がしたいの間違いじゃなくて?」俺は苦笑いする。
「う〜ん、どっちだろう?」彼女が眉間にしわを寄せて腕組みをする。
それがなんだかおかしくて、クスっと笑ってしまった。
「決まったら教えてね」