第24期 #5
私は一体いつまで、あの「生みの苦しみ」から目を反らしてゆくつもりなのだろう。
私は一体いつまで、この「普遍的な生活」に隠れて生きてゆくつもりなのだろう。
私は怖いんだ。多くを生み出すことが義務となり、それに自分の才能が追いつかなくなってゆくのを痛感してしまうことを。
私は恐れているんだ。普遍的な生活を捨ててしまって、もはやその普遍世界に戻れなくなってしまうことを。自分の居場所を失ってしまうことを。
作家になりたい、と。私は誰にも打ち明けられない。
キャンドルは揺らめきながら燃える。
私はなぜこんな、誰なのかもわからない人たちの前でこんなみっともない告白をしているんだろう。もっともらしい嘘の告白をする事くらい雑作もないのに、みじめな真実を口に出して。
神妙に椅子に腰掛けたまま、黙ってキャンドルを見つめている人たちに目を向ける。その瞳の中を覗こうと試みる。
彼らは耳で話を聞いているようには思えなかった。もしかしたら心で聞いているのかもしれない。身じろぎもせずキャンドルを見つめ、表情も体現も一切の変化を見せないのに、わかるのだ。彼らが私の苦しみを理解しつつあることが。
一人、また一人と数が減ってゆく。誰一人立ち上がりもしないのに、気が付けばまた一人減っているような気がする。けれど全く気にならない。聞いているつもりも見ているつもりもないのに、キャンドルの灯りは目に染み込むようだし、誰かが話している言葉は耳より先に脳に響いているような気がする。ありありと映し出されているのはその人の心の内側なのか・・・。
私たちは何だろう。何のためにここにいて何を目指しているのだろう。
わかってることは二つだけしかない。私が心から誰かに、今まで誰にも話したことのない恐怖を聞いてもらいたいと思っていたこと。そして、ここにいる誰もがそう思い続けてきたいということだけ・・・。
キャンドルを見つめる人たちの心に私の苦悩が染み渡り、理解され、許され、時とともに浄化されてゆく。
ああ、消えていった人たちがどこに行ったのかようやくわかった。戻ったのだ。戻るべき場所へと。この、静かすぎる深い闇の中を抜け出して。だとしたら私も、今なら誰にも気づかれることなくこの椅子から姿を消すことができるだろう。このキャンドルが消えずに揺らめいている限り、何度ここへ迷い込んだとしても。