第238期 #4

あの国へ

「絶対ダメ!」
「なんでよ」
「駄目なものは、駄目なの」
「だから、なんでなのかって聞いてんの!」
連日繰り返される問答はこれの繰り返しだった。
きっかけは、ある国から届いた一通の手紙。あの国から手紙が届くとかあるんだな、と驚いた。外国と通信する手段があると思っていなかった。
中身もそんなことあるんだ、と思うような内容で、それが連日兄妹喧嘩のタネだった。
「あんな国に嫁いだら、もう二度と会えないんだぞ」
そんなこと許されるか。
「どこの国嫁いで行っても、そんなフラフラと会えないわよ」
バカじゃないの?
お互いにらみ合って全然話が進まない。
「そろそろお茶にしませんか?」
場違いなセリフがふたりに割って入る。
「おふたりとも、お疲れでしょう」と、紅茶の入ったカップがふたりの前に置かれる。
入口でずっと立っている俺にもカップが出てきた。
「立ったままじゃ飲みにくいでしょうけど」と苦笑いを浮かべて。
「ありがとうございます」受け取ってお礼を言う。
王妃が紅茶を運んでくる国なんて、ここぐらいじゃないかと思う。
王妃も毎朝、今日はどの紅茶がいいかしら、と楽しそうなのでこの兄妹喧嘩も悪くないのかもしれない。
ゆっくりとソファに座った王妃がカップの紅茶を一口飲んで、ふたりに問いかけた。
「ご本人はどう思われているのかしら?」
ふたりが一斉に王妃の方を向く。
「ご本人?」
さすが兄妹、息ピッタリじゃんって思った。

なんで王妃、もっと早く言ってくれなかったのかな。
妹が帰って行った部屋で、国王が机に突っ伏している。
「あいつなんでこの婚姻話に乗り気なんだろう?」
「本人の気持ち、知ってんじゃね?」
「そうなの?」
「知らないけど、あそこまで頑ななのはそういうことなんじゃね?」
「俺、バカ?」
「バカっていうか、純粋?」
「なにそれ」
国王もただのお兄ちゃんなんだなって思う。
過去のこと引きずってんだな、お前が。

「そのお話、お受けさせて頂きます」
深々と頭を下げる女を見ながら、国王が「わかった」とムスッとしながら言った。そして、「でもな〜」と呟く。
「いいじゃない。双方合意してんのよ」
娘を嫁にやると思えばいいのか? と呟いたのが聞こえて、吹き出しそうになる。
侍女故に、嫁に出すという立場なのかと疑問が出たようだ。
「準備は私がするので、兄さんはお返事だけ書いてくださったら結構です」
身を転じた妹の前に紅茶を持った王妃が立っていた。
「あの国の紅茶はどんなのかしら?」



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