第235期 #2
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?」
お妃さまが鏡に向かって言いました。しかし鏡には精など宿っておらずただただつるんとした無機物なので、お妃さまは必定自分の顔に話しかけているだけでした。
「もちろん、お妃さま、あなた様が世界で一番美しいです」
とお妃さまは自分でつぶやきました。そうすると少し自己肯定感が高まりました。これはお妃さまの寝る前の日課なのです。お妃さまは着るもののセンスも生地も高級でその肌はみずみずしく、特に強制されずとも、周りのみんながお妃さまを美しいといいます。でも本当の美しさっていったい何かしら、と思うところがあって、毎日鏡に問わずにはいられないのです。ある日、お城のパーティでとっても疲れたお妃さまは、鏡に向かってこう言いました。
「鏡よ鏡、私は世界で一番美しいです」
あまりに疲れて途中を端折ったその言葉はしかし、今までより強くお妃さまの心に響きました。ああこれでいいんだな、と思ったお妃さまは、ちょうど精が宿った鏡が「それは純白雪姫です! 純白雪姫です! 純白雪姫です!」と叫ぶのも聞こえずそのまま眠りました。
純白雪姫は最終面接の帰りの電車で、リクルートスーツが皺になるのにも構わず座席で寝ていたところ隣の王子に危うく唇を奪われそうになりすんでのところで目を覚ましました。
「警察呼びますよ」
「純白雪姫、あなたが警察なんて言葉を発しちゃいけない、僕が目を覚まさせてあげる」
この風俗にはよくわからん設定を持ち込む輩はおおいのですが、キスNGはHPにも書いてあります。そしてこの男の設定は作りこみすぎています。
「キスはNGです」
「じゃあ純白雪姫、パンツ見せてください」
王子は純白雪姫の前にひざまずき、真っ白い肌の純白雪姫がこちらに尻を向けファスナーを下すのをじっと見守りました。化繊スカートに擦れた尻は王子が想像していたよりガサガサしていて、ところどころ赤いできものがあり汚く、さらに王子が許せないのはパンツが黒のTバックだったことでした。
「なぜ純白じゃないん」と叫ぼうとした王子様に純白雪姫は尻を押し付け腰を振り始めました。純白雪姫はちょうど蛍光灯の影になり表情は見えませんでしたが、尻を大きく反時計回りに回す途中で一瞬笑顔が見えました。それは誰が何と言おうと世界一美しいと王子は思いましたし、車窓に宿ってのぞき見をしていた鏡の精もそう確信していました。