第233期 #7

カワイイヒト

学食で友人の視線がちょくちょく逸れる。
気付いているのは僕だけじゃない。他のふたりも気付いてて、なんだかニヤニヤしてる。
そういうことか、と思いつつ、どんな人なんだろうと振り返りたくなる。
どんな態度が正解なのかわからないけど、僕は気にしてないふりをしながらコロッケを食べた。
「お前、気になんないの?」
急に振られて、「え?」と間抜けな声が出た。
「あぁ、気になるけど、振り返ったらおかしくない?」と言ったら、ふたりが「あぁ」と一緒に声を出した。
「ふたりは、誰か知ってるの?」って聞いたら、「やめろよ」と遮る声が入りつつも、僕の隣に座る友人が科と学年を教えてくれた。
「全然違うのに、どこにそんな接点あったの?」
「バ先が一緒なんだって」僕の問いに答えてくれたのは、本人ではなくて斜め前に座る友人だった。
「だったら、そんなに見てたら気持ち悪がられない?」
「そうかな?」急に不安そうな顔をして僕を見る友人。
「いやいや、だったらあっちもこっちなんて見てないって」斜め前に座る友人が言う。
「あっちもこっち見てんの?」
僕と隣の友人の声が被った。
それはもう……。
「イケイケじゃね?」と隣の友人が言うから、「え? 押せ押せでしょ?」と僕が言うと、「そんなのどっちでもいいよ……」と斜め前の友人が苦笑いを浮かべる。
「ところでさ、どんな人なの?」
「あぁ……」と目の前の友人が言い淀んだ。斜めの前の友人が「あぁ、容姿は……」と言ったところで、僕は「今のは愚問だったね」と遮った。
「え? どういうこと?」隣の友人が水を飲みながら聞いてくる。
「ん? 好きな人って可愛いよね」僕が目の前の友人にニコッと笑うと、「え?」と驚いた顔をした。
「好きな人って、会うたびに可愛くなって、どんどん好きになっちゃうよね」
「なに、お前、好きな人いるの?」ニヤニヤして斜め前の友人が聞いてきた。
僕は片思いの相手を思い浮かべて、うっかり喋りすぎたことに気が付いた。
「え? 一般論でしょ?」
「一般論ってなんだよ」隣の友人が笑う。
「で、誰なんだよ?」目の前の友人が聞いてくる。
ワイワイしている僕たちのテーブルの横を、彼女のが通り過ぎて行く。
その時、僕は見てしまった。向こうのテーブルの彼に小さく手を振る彼女を。
君の可愛い人は、ずっと君を見ていたんじゃなくて、僕たちの向こうのテーブルにいる彼を見ていたんだ。
どおりで、向こうの彼と目が合うな〜って思ってたんだよね。



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