第232期 #13
日曜日のお昼。
ボクの隣でうどんをすするキミ。
ふたりしかいないダイニングテーブルで、ボクとキミは並んで座って窓の外を眺めながらご飯を食べる。お義母さんが生きていた時の名残で、深い意味はない。
嫌いな人の横に座ると、嫌いな人の顔を見なくていいとか聞いたことがあるけど、ボクはキミの正面より、隣に座っていたいなって思う。
キミの正面に座っていたら、今日みたいにキミがうつむいているとなかなかキミの顔が見れないけど、隣だとよく見えるでしょ?
ジッと見てたら、食べたいの? と、キミがボクに箸でつまんでいろんなものを目の前に持ってくるけど、それも対面だと距離が遠いよね。
テーブルを挟んで対面って、意外と距離があるんだよ。
だから、ボクはキミの隣が良いなって思ってる。
ちょっと手を伸ばせばキミに届くこの距離が、ボクは好きだ。
キミとボクの時間が交わっているときは、とにかくボクがキミに触りたい。ボクがキミを見ていたい。
一方的にボクがキミのことを好きなんだ。そんなことわかってる。でも、キミもボクのこと好きだって言ってくれる。
「本当にボクのこと、好き?」
「ん?」
キミがうどんをくわえたままボクの方を見た。
はっと気が付いて「ゴメン、なんでもない」と慌てて、ボクはうどんをすする。
「変なの」と呟いて、キミもうどんをすする。
暫くして、「好きな人、できた?」ってキミが空になったどんぶりを見つめながら言った。
「なんで?」急に不安になる。なんでそんなこと言うの?
「さっきの、久しぶりに聞いたから。天秤にかけられたのかと思ったの」
天秤? なんの?
キミはどんぶりを流し台で洗い始めた。
一緒にテレビを見ている時だった。
「離婚届、明日貰ってきたらいい?」
「え?」どっから離婚届の話になったの?
明日帰ってきて、ここに離婚届が置いてあったらボクはどうしたらいいの?
キミから「離婚届、貰ってきたよ」って渡されたら、ボクはどうしたらいいの?
大きな不安に襲われる。
「手元にあったら、安心するのかな? って思って」
「誰が?」
「あっくん?」
「ボク?!」ビックリして、大きな声が出た。
「そんなのあったら逆に不安だから、持ってきちゃだめだよ」
ここに離婚届があります、なんて心臓に悪すぎる。
ボクの不安の8割はキミでできているんだけど、その9割はボクの想像を超えた発想をするキミからボクが不用意に招いてるんだと、結婚5年目にして初めて気が付いた。