第224期 #1

夢の世界へ

私の部屋からは広い青空がよく見えた。気持ちいいどこまでも広がる青空を見ると私は悲しくなった。首輪に触れた。私には自由がない。広い世界なんて存在しないのだ。私は想像した。暖かい日差しを浴びながら、春の風が吹く道を、春の草花の香りを嗅ぎながら、私の歩きたいスピードで歩く。夏には磯の香りが広がる海に向かって飛び込む。イカ焼きの屋台でイカ焼きを買って、夕暮れの匂いとともに歩き食いする。涼しくなれば山に登って木の実を食べる。他の人と同じように、やりたいと思うことを、やりたいようにやる。行きたいところに行く。雨の日には思いっきり濡れる。寒い日には好きな味のお茶をホットで、おしゃれな喫茶店で飲む。

それは突然訪れた。私から首輪が外された。部屋からはきれいな青空と気持ちいい日差しを感じられた。本当の意味で青空を、日差しを、空気を感じられるのは、自由になれるのは、そのチャンスは今しかないと思った。体が勝手に走り出した。部屋を出て、ドアをいくつもくぐって、最後のドアを開けた。

外の世界は広く、うるさく、せわしなく、そして全てが大きかった。青空は大きな建築物でほとんど見えない。小さい私には日差しは届かず、湿っぽい薄暗いところを歩かないといけない。周りにはたくさんの人がいるが、彼らは私には目もくれない。避けようともしない。ぶつかって来られても、舌打ち一つで通り過ぎる。外に出ても私は自由になれるわけではないんだ。

私はいつもの部屋に戻った。今は、首輪はついていない。でも、きれいな青空の晴れの日でも、私は首輪があったときと同じく、体育座りして、この部屋から一歩も外に出ていない。



Copyright © 2021 糸井翼 / 編集: 短編