第222期 #6
可愛いな、と思った。
髪を甘いカフェオレみたいな色にして、キラキラした爪は少し重そうで、スカートは短め、靴は一番気を遣う。今は底の分厚いスニーカーが熱いらしい。そうやって私は今とても不機嫌です、と周りに主張せずにいられないところが可愛いと思う。毛を逆立てた猫みたいだ。
わかりやすいものは可愛い。
そう思って見ていると目が合って、私はにこりと微笑んだ。
歯は見せない。その後ろには秘密があるから。
私は別に不満なんかなかった。
茶道部は楽しいし、黒髪も校則を守るのも特に理由なんかない。
私の一番大事なものは音楽だった。
なんとなく心を上滑りする親や先生の言葉と違って、彼らの言葉は私の中にまっすぐ届いた。イヤホンの邪魔になるからピアスはつけない。ライブで隣の人を傷つけるから爪も伸ばさない。それが結果的に品行方正な女子高生になっていただけだ。
でも私の好きなメタルバンドのギタリストは舌にピアスをつけていた。
とても綺麗な銀色は赤い舌によく映えて、私は一瞬で虜になった。
自室にいるときやお風呂に入っているとき、学校へ行く前に姿見で確認するとき、ちらりと舌を出すと心が沸き立った。そのためだけにつけたものだけど、初めて知ったときの母親の嘆きは忘れられない。
告白されて付き合った男の子には騙されたとさえ言われた。
黒髪も規則通りの制服も、茶道もメタルもこのピアスも間違いなく私だ。
けれど、そのとき私は知った。
期待通りでなかったり、わかりにくいものは可愛くないのだ。
だけどこないだ、毛を逆立てた猫の子に見せてしまった。
だって似合ってたカフェオレ色の髪を黒くして、カラコンを外した黒い目で、私みたいになりたいと言うから。
このピアスを知らないくせにそんなことを言うから。
八つ当たりだったのかもしれない。
舌を見せると彼女は怯んだ。
だけど、なぜかその後お茶をした。引き止めてきた彼女も自分で自分に驚いたような顔をしていたけど、それから彼女は学校で派手な化粧やピアスをしなくなった。
もう周りに合わせるのはやめたと彼女は言ったけどキラキラした爪はそのままだった。自分が見えるところはアガルでしょ、顔や耳は鏡見ないとわかんないじゃん、そう言ってくしゃりと笑う彼女はもう毛は逆立てていなかったし、私も口元を隠さなかった。
私ね、ネイリストになりたいんだーと言う彼女に、私も音響の学校行きたいんだよねなどと返しながら今日も二人でマックに行った。