第22期 #3

あの人

あの人と出会ったのは、僕がお腹をすかせて町の近くの林を歩いていた時です。
「どうしたんだ、おなかでもすいているのかい?」
と言って、ポケットに入れていた『カルシウムたっぷりニボシ』を僕にくれたのでした。
それが僕とあの人の出会いです。親も仲間もいない僕は優しい気持ちになったのでした。
それから毎日、雨の日も風の日もあの人は僕にニボシを持ってきてくれました。
いつかは来なくなるだろうと思っていましたが、あの人は本当に毎日毎日きてくれたのでした。
僕はあの人が来るのを心待ちにするようになりました。
いつもニボシを持ってきて食べ終わるまで待ってくれる優しい瞳が好きでした。
食べ終わった後なでてくれる優しい手が好きでした。
僕はあの人が本当に好きだったのです。

ある日、あの人と一緒に知らない女の人が来ました。
僕はとてもうれしくなりました。
また新しい人間の友達ができると思ったのです。
しかし、それ違いました。
「えっ、これってイリオモテヤマネコってやつじゃないの?」
「そうだけど……一人ぼっちでかわいそうなんだよ」
「まずいんじゃないの勝手にエサとか与えちゃ。」
「そうかな……でも……」
「私、天然記念物って嫌い。」
その日から、あの人は来なくなりました。
また、僕は一人ぼっちになってしまいました。
毎日、悲しく泣きました……でも、僕は待っています。
あの人は雨の日も風の日も来てくれました。
だから僕は待っています、雨の日も風の日も……
――もう一度、あの人に会いたい――


Copyright © 2004 空野大地 / 編集: 短編