第22期 #1
「『地球色』を使った作品を仕上げなさい」という御達しがあってからもう彼是一ヵ月が経ってしまった。
提出期限は迫っていた。
ああ思いつかないっ。誰かわたしに絵のアイデアをください!
「そんなん、なんか環境問題を訴えてますうみたいにすりゃあいいんだろ?」
当然だろう、という顔をしたのは誠だ。環境問題か。うーん、弱い。
「俺はテロリズムで攻めてってるけど……」
大輔はまだ試行錯誤といった感じだ。大輔に難しいものがわたしに扱えるわけがない。
「愛、愛。ラヴとピースでしょ。愛は勝つ! ラヴとヴィクトリー!」
多恵のは夢見過ぎ。掘下げれば確かに深いテーマではあるけど安易。
あーまいった。このままじゃ単位が……。むう仕方ない、結局あの手でいくしかないか!
「柏さん、花を表すのにただ花を描いたのではいけないという言葉を知っているかな?」
「ええ、まあ、耳にしたことくらいは……」
「地球色で地球を描いてもね。幼稚園児じゃないからさ。絵画は落書きとは違うよ。訴えるものがないと」
「……はい、すみません」
返却されたカンバスを見てみた。黄色黒い地球がその中に浮かんでいる。これじゃあ確かにそのままだ。先生の深読みを期待したことが堪らなく恥ずかしく、苦しかった。
「あーなにこれ。返されたの?」
部屋に置いておいたカンバスを妹が嬉しそうに眺めていた。人の不幸は密の味か。
「ふーん……でも、あたし好きだけどね」
「うそ、なんで?」
「なんかさあ、あたし達って宇宙の中で独りぼっちなんだなあって気になっちゃうもん。こんな汚い星だし、宇宙人も寄りつかないだろうしね。なんか悲しい」
言葉を失った。わたしは何も感じないままに描いたのだ。
それ以来、なんにも手につかなくなった。
留年が決定し、季節がひとつ過ぎて、夏。
わたしの足はようやく意志を持ち、図書館へ向かっていた。靄になった雨は半端な弾力で、けれどもわたしの体を素通りしていく。
図書館は冷えていた。風邪をひきそうだ。
「すみません。『地球色』について載っている本ってありますかね……」
司書は、のらりくらりと捜し始めた。