第219期 #1

柘榴の一枝が闇をはらう話

周公は両手に掲げていた黒い布を愛する女の枕元に置いた。
布の上には枝のついた柘榴が乗っている。
今朝見つけて自ら手折ったものだ。
肌理の粗い陶器のようにざらりとした外皮がざっくりと裂け、中から紅玉の新鮮な実がこぼれ落ちそうに顔を出している。

床に伏せていた女――小苑は体を起こしながら柘榴を一瞥し、そのあと呆れた眼差しを周公に向けたが、周公は怒られた気がしない。
ため息をついた女は、諦めて柘榴の枝を手に取り、注意深く調べはじめる。
やがて頷いて周公の方へ居直った。
どうやらお眼鏡に叶うものだったらしい。
「影を取らせましょう」
小苑が呼びかけると、奥の部屋から下女が出てきて準備をはじめた。

あっという間に小苑の寝台は、白無地の衝立で三方を取り囲まれた。
その間、小苑は慣れた手つきで愛用の燭台に灯を点した。
周公が下女を手伝って中庭に面した雨戸を閉めると、部屋は闇に包まれ、衝立には蝋燭の炎に照らされた小苑と柘榴の枝の影が映った。

小苑は少し変わった女だった。
普通の美姫がするように鏡を覗いたり花を愛でたりして満足を覚えるようなことはしないで、自分や草花の姿を影に映して眺めることを無上の楽しみと感じるのだった。
周公の正妻は小苑の影好きを薄気味悪いと毛嫌いしているが、周公は面白い趣味だと思っていた。

「この枝と今の私は思いの外お似合いね」
興に入った様子で衝立に映る影に向かいながら、柘榴の向きを変えたり立ったり座ったりしてあれこれ試す小苑を、周公と下女は眺めていた。
彼女は二月前とは見違えるほどに痩せてしまっていた。
前から煩っていた病がいよいよ酷くなり、伏せる時間が日に日に伸びて、今では周公が訪れる時くらいしか体を起こさないということだ。
けれど今、影で遊ぶ彼女は、そのような境遇から自由になり、ただ夢中になっている。
小苑の言う通り、病に衰えた女の居姿と、ふてぶてしい割れ柘榴を備えた静かな枯枝は、衝立の上によく調和して様々な景色を作っている。
そのことをこの女はおもしろがっているのだ。
十日ほど前に見事な菊の一枝を持参した時には、ここまで嬉しそうではなかった。
「花はよくできているんだが、人間の方がこんなに痩せちまって」そう言うなり、小苑の影は肩を落として、早々に灯火を吹き消してしまった。

その吐息が周公の心の火もかき消してしまい、この十日というもの暗闇の中にいたようであった。



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