第218期 #13

ほしのふるさと

 天文観測官の私がその集落に辿り着いたのは、宵の明星が瞬き始めた頃だった。
 人を寄せ付けぬ山奥に十数年に一度流星が落ちる湖がある――そんな噂の湖の近くに、その奇妙な集落は存在していた。
 点在する荒屋に住む住民達を見て、その異様さに驚かされた。
 病的に青白い肌、虹色に輝く瞳、胴体に比べてやけに長い手足と赤銅色の金属質な髪。
 何より不気味なのは、老若かかわらず、誰もが似た顔立ちをしていることだった。
 そして、何故かその集落には女人しかおらず、一人の男の姿もなかった。
 集落の鬼門に位置する遺跡じみた鳥居の先に、巨大な鏡を思わせる湖があった。噂に聞いた湖である。
 到着から三日後、遂にその日がやって来た。
 湖の周りには、集落全ての人間が集まっていた。老いも若きも一様に興奮している様子である。
 ふと、明らかに他と装いの違う者達がいることに気づいた。白い服を着た少女達と、緋色の衣を纏った女達だ。
 その意味を尋ねようとした時、目映いばかりの白い閃光が天を覆い、耳を聾する轟音が空から降ってきた。空気が激しく振動し、顔を上げると、眼前に既に流星が迫っていた。
 激突すると思った刹那、流星は急激に減速し、ついには青紫の光を放ちながら湖面に、とぷん、と着水したのだった。
 その直後、緋色の女達がしずしずと湖に入り泳ぎ始めたのだが、その姿が、フッ、フッ、と突然消えていった。まるで蝋燭の火を吹き消すように。
 それに続き、白い服の少女達が緊張した面持ちで湖に入ったが、先程と同様に黄昏の湖に消えていった。
 周囲の者達はその光景を真剣な眼差しで見つめていた。その瞳に、どこか恍惚とした光が宿っているように見えたのは気のせいだろうか。
 やがて、少女達は湖面に浮かび上がり、陸まで戻ってきた。
 彼女達は一様に朦朧とした様子で、誰もが自身の下腹部に手を当てていた。
 結局、緋色の衣の女達は一人として戻ってこなかった。
 その時、水面が急に泡立ち始め、凄まじい高さの水柱が立ち上がった。
 青紫の閃光を放ちながら、何かが水中から飛び立ったのだ。
 轟音を響かせ、ソレは星辰の輝く宙へと還っていった。
 住民達が悲鳴にも似た歓声をあげる中、その光景を呆然と見つめる少女達を横目に、私は慄然として悟った。
 何故、この集落に女しかいないのか。
 何故、彼女達の顔が似通っているのか。
 全ては、あの流星のせいだったのだ。
 あの〈父親〉の。



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