第216期 #6

おはぎ

彼と会ったのは久しぶりだった。八年ぶりくらいか。なんかおっさんになったな。
「お前は変わんないな」
変われないだけだ。彼は苦笑いした。
「おはぎ食いな」
サンキュー。あんこ最高だよな。
「類に会ったよ、覚えてるか」
覚えてるよ。小学生の頃は類と俺ら、いつも三人だったな。
「なんとなくおとなしい奴だったのに、あいつ髪染めてチャラチャラしててさ、いかにもFラン大学生」
それ笑える。でもあいつイケメンだからな。…ところでFランって何のことだ。
「類に『お前、昔面白い奴だったのになんか変わったな』って言われて。俺はずっと静かな人見知りキャラだ、変わったのはお前、そう思ったけど」
うん。人見知りだけど面白いキャラクターだわ。
「俺も変わってしまったってことなのかな。なんかすごい色んなもの失ってきた気がするわ」
そりゃ変わるよ。何年経っていると思っているんだ。俺にはお前が大人になったように見える。類もたぶんそう。それぞれの世界で成長して進化して、今にたどり着いたんだろ。恐れるなよ。びびりだな。お前、昔から頭良いけど、考えすぎなんだよ。
「だって、お前と、類と、三人でいたあの頃、すげー楽しかったから、失いたくないんだよ、あの頃の感覚とか」
小学生の思い出を大切に思ってくれているんだ。恥ずかしいこと言うじゃん。目があった気がした。
「やっぱり俺ももう大人だからな。小学生の頃みたいに無邪気にみんな友達、とはいかないのかな」
それはそうだって。変わるよ。でもさ、変わらないものもある。だからこうして会いに来てくれたんじゃないか。あの頃、三人で仲良く遊んでいた、あの時間、あの世界はずっとなくならない。戻れなくても、そこにある。
お前は成長したけど、考えすぎなところも、結局俺のところに来るところも変わってないじゃんか。
「いつも困ったことがあるとお前に愚痴こぼしていたな、やっぱり変わってないか」

「今日は来てくれてありがとう」
おばさんがおはぎを出してくれる。親友の遺影は小学生の頃の無邪気な笑顔だ。
持ってきた日本酒を出す。結構高かった。
「お酒、あいつ飲めますかね」
「私は飲めないけど、お父さんに似たなら結構いけると思うよ」
生きていれば成人していたはず。あいつの時間は止まったままだ。そう思えば、俺はちゃんと成長して年をとるべきだ。そう、変わるべきなのだ。

あいつはお盆に帰ってきているだろうか。仏壇のろうそくの火が風もないのに揺れていた。



Copyright © 2020 糸井翼 / 編集: 短編