第215期 #10

女の子をいじめてもどうしようもない

 女の子をいじめてもどうしようもない。本当にどうしようもないし、お金を燃やしてしまうくらい意味がない。お前は女の子というにはあまりに歳を取り過ぎている。誤解しないでほしい。お前は若い。俺より三歳年上だとか、そう言うことは抜きにして、二十代の後半を慈しむように毎日、毎日、日常の断片を切り取って、写真と言葉で飾り立てた、お前自身の巣をせっせと作るお前はとても若い。そこに登場するお前は、美しく、可愛い。その日お前はその顔に似合わない強いカクテルを飲み、少し泣いた。俺とお前とは、同じ会社の他部署の間柄だが、二人ともサッカー観戦が好きで、スポーツバーで何度か一緒になった。接戦だったその日、後半ロスタイムでゴールが決まったとき思わず目が合ったお前のはじけるような笑顔に、俺は釘付けになった。俺はもう少し飲みたいとお前を誘い、バーカウンターで俺はスコッチを、お前はマティーニを舐めながら、さっきの試合の話を続けた。試合後の喧噪が引き、俺とお前は仕事の話から、お互いの私生活の話をした。教えられたお前のインスタの写真を、お前が補足的に語る言葉で肉付けしながら繰っていくと、インスタ上のお前は目の前のお前自身より立体的だった。これはしんどそうだな、と思いお前を見ると、お前はマティーニを飲み干し、目の端に涙を溜めていた。「ねえ私をどこか遠くへ連れてってよ」

 次の土曜日に俺はお前を連れて行った。ディズニーランドへ連れて行った。お前はリボンのついた鼠のカチューシャを、少しためらいながら身につけ、すっかり笑って、俺も同じだけ笑って、夢のような一日を過ごした。「変わらなきゃ、ね」といって一生乗らないと決めていたビッグサンダーマウンテンに乗ったあと、泣き笑いの上目遣いで俺を見つめるお前に俺は恋をした。そして今まったく同じ目で俺を見るお前は、実は自身が夫も子どもも居る身であることをベッドの上で告白している。「だって好きになっちゃったもの」「だって私をこんなに包んでくれる人、今までいなかったから」「だって」去年より一つ歳を取ったお前はその目に、かき集められるだけの少女性をかき集めて俺を見る。俺はその目を見ながら白雪姫の王妃を思い出す。王様にカボチャのスープを作ったそのお玉で、毒をかき混ぜるその目が、漫画のようにきらきらと大きくて、「お前のその二次元めいた目が気持ち悪いんだよ、失せろ」



Copyright © 2020 テックスロー / 編集: 短編