第214期 #7

マジナイ

炎と戦いの軍神・マルスが宿るその石は、不死の命が得られるらしい。

「これを作ってくれる人を探している」
どうしてここまで来たのでしょう? という疑問を抱えつつ、暑い中コートのフードを被った男が差し出してきた袋の中を見た。
「触っても良いですか?」
「どうぞ」というので、ひとつ袋から取り出した。直径2センチほどの球体だった。食べ物だというので、取り出した球体を袋に戻すのもどうかと思ったので、適当な小皿に置いた。つまんだ指先についた結晶を舐めてみる。甘い。
「残りわずかとなったため、これを作ってくれる人を探してここまで来た」
確かに袋の中には自分が取り出したものを除いて、残り4玉だった。
「あなたなら作れるのではないかと街で伺ってきた。どうにかならないのか」
「いや……」
男を上から下までじっくりと眺める。
「お国の者に作って頂いたらよろしいのではないでしょうか? どこの馬の骨ともわからぬ輩が作ったものではご心配でしょう」
お引き取りを、とドアを閉めたつもりが、閉まる直前に男の足がドアをとめた。
「もう、あなたしか頼る者がいないのだ」
「は?」
そんなわけないだろう とそこまで出てきて飲み込んだ。
おたくらの戦争に巻き込まれたくもないし、そんな胡散臭いもの作りたくない。
「どうぞお帰りください」
一旦力を緩め、全力でドアを引く。ドア枠とドアに挟まれる瞬間に男の足はすっと避けた。
ドアの前にまだ男はいる。大きな溜息をついて、小皿に乗った甘い球体を見る。
細くドアを開いて、小皿を地面の上に置いた。
サッとドアを閉じて「お持ち帰りください」伝え、男が立ち去るのを待つ。
慣れているのか、男は全然立ち去る気配がない。参った。

アレはホメオパシーなのだろう。鉱石の種類はわからないが、男の身なりから想像するに、ルビーだと思う。軍神マルスが宿り、不死の命が手に入るというルビーを体内に取り込んで……、という意図なのだろうか。ただ、個人的にはただの糖分摂取にしかならないと思っている。いや、エネルギー補給にはなるのか。ついでにマジナイでもってこと?
作った者の意図はわからない。

「あのさぁ」ドアの向こうの男に語り掛ける。
「ルビーって守護の意味が強いけど、私は導きの石だと思うの。取り込んだりするんじゃなくて、ルビーの指し示す方に向かっていくのがいいんじゃない?」
アンタの主の体のためにもさ。

暫くして男の足音が遠のいて行き、安堵の溜息が漏れた。



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