第214期 #5

ソーセージ侍

ソーセージ侍はソーセージが大好きな侍なので、村のみんなからソーセージ侍と呼ばれている。あとよく人を殺す。この前も、ここから三軒先の家の子供がすれ違い様に袈裟懸けにされた。理由はわからない。そしてわかる必要など無いとこの村の誰もが思っている。まず奴は刀を所有している時点で他人を斬ることが可能だし、我々は持っていないのでそれが出来ない。出来ないので出来ないし、出来るからやってもいい。この論理の外側の価値観は今のところこの村には無いので、我々はこの刀を持った狂人を天災の一種と見なして付き合っていくしかないのだ。中にはこれを神の所業と捉えて「天罰」と畏れる者もいたが、どう解釈しようとソーセージ侍の刃に理由が宿ることはなく、全ての年齢、人種、性別の者は元より、有機物、無機物、ありとあらゆる存在が分け隔てなく刀の錆となった。村の老人達によるとこの村はかつて栄えていたらしいが、駅ビル、ビームス、時差式信号機、アップルストアー、スリーエフ、てもみん、ABCマート、押しボタン式信号、アカチャンホンポ、タワーレコードなどの建造物は尽くソーセージ侍によって切り刻まれ、辛うじて残ったのが村の中心で偶像として鎮座しているリンガーハットだという。斬る対象が無差別と言えど、リンガーハットの屋根の鋭利さは狂人に生理的な恐怖を与えたのかもしれない。加護に肖ろうと、村人達は今日も皆店の前に列を成している。私は素うどんは好きではないので並ばないが、その昔、リンガーハットの麺といえば黄色い中華麺で、上には野菜がたくさん乗っていたらしい。それも今ではこの蟻のように群がる信心深い連中によって全て食い尽くされ、あのようにはなまるうどんと区別が付かない代物を売っているというのだ。苛つく。そもそもメルカリに斬鉄剣を出品した非常識な奴にも腹立つし、それを購入して侍を自称する異常者にも、そしてその異常者に好きな食べ物由来の呼び名を付ける村人達のセンスにも私はブチ切れそうだった。そして実際にブチ切れたのが先程だ。私はヤフオクで村雨を競り落とした。狂っているか否かはいつの時代も多数決だ。大勢の中で一人だけ狂っているから狂人なのだ。それなら二人にしてやる。俺はソーセージ侍側に付く。これによって村の狂いを薄める。待ってろよ、貴様ら。



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