第212期 #4

初恋

「みんな、緑色のお飾りつけてる。私も欲しい」
腕に抱いた小さな女の子がそう言った。
露店に並ぶ緑色の石の装飾品。外交を行わないこの国の人は、その石の価値を知らないのだろう。その辺に転がっている石ころみたいな値段が付いていた。
「じゃぁ、好きなの見ておいで」
彼女を腕から降ろすと、露店に向かって走っていく。その後ろ姿を見て、小さな彼が言った。
「あっちに、似合いそうなのあった」
おや? っと思った。
彼女を呼び戻して、彼の見つけた露店まで行く。確かに小さな子が付けるにはいい色なんだが。
後ろからリンの慌てた声が聞こえた。わかっている。
この国の人にとってはただの石ころでも、一歩外に出たらこの石は異常に価値がある。特にこの色は希少だ。
参ったな。それでも、この国の未来の王様がこれが良いと言っているのだ。無下にするわけにもいかない。私は腹をくくった。
「これにしようか」そう言って、私は店主に対価を支払った。

今でも彼女の耳元でその石は揺れている。
「もうひとつ、付けない?」
寄ってきた彼女の耳に、先日職人に加工してもらったらエメラルドグリーンの石を付けた。
この石は、結納の証でもらったものだ。これは私の想像でしかないが、多分この色はあの王子様がこの娘を想像して、今ならこの色と思って寄こしたのだろう。
「重い?」さすがにふたつは耳が痛くないかと付けてから思った。
「ううん。大丈夫」ニコッと笑う彼女の耳でふたつの石が揺れた。
彼女によく似合っている。ふと思って、溜息が出た。
ここまで計算されていたのだとしたら、怖い。

まさか本人が迎えに来るとは思っていなかった。そこまでして、あの王子様はあの娘が欲しかったのか。異例づくしの事態に、あの国はさぞ混乱しているに違いない。
「初恋だったんですって」
列の最後尾が豆粒の大きさになったところで、私は隣にいた兄に言った。
「どっちが?」
「どっちも」
「だから、俺の反対押し切ってまで進めたの?」
チラッと隣の兄を見る。
あの国でひとりになるのなら行かせなかった。でも、リンが側についているなら大丈夫だと思った。
「この選択が双方にとって幸せだと思っていますので」
「ふ〜ん」そう言って、兄は建屋の中に戻っていく。
「心配されているんですよ」兄嫁にそっと耳打ちされる。
「引きずりすぎです」苦笑いをして答えた。

見えなくなった列の後ろに頭を下げる。
どうか彼らにこの先も神の祝福と加護があらんことを。



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