第208期 #6

ガーネット

「カズキくん、これ」
高橋くんから差し出された箱を受け取って、蓋を開いた。中を見て驚いた。
「これ、どうしたの?」
「五月さんが、借りてこられたそうです」
今日、みんながもう一度ステージに立つからと遺族から借りてきたのだという。
「一緒に、ステージに連れて行ってください」
深く体を折り曲げて、高橋くんは頭を下げた。

深い赤の細長い涙型の石の耳飾りは、姐さんのものだ。
ハヤトが姐さんの誕生石をプレゼントしたいと言って、なぜか俺が探した。
そして、なぜかみんなでお金を出し合って、買ったピアス。
身を守ってくれるとも言われるその石の持ち主は、逆恨みで亡くなってしまった。
一見縁起の悪そうなその石に、姐さんがどんな思いを込めていたのかを知らないわけではない。
俺らの前座としてステージに立つときは、ひとりでステージに立つときは、サポートの仕事でステージ立つときは、絶対に身に着けたりはしなかった。
「皆さんの声とそれに湧く観客の声だけを聴かせたいんです。きっともっと上に連れて行ってくれると思うから」
そう言って笑っていたのを思い出す。
姐さんの耳元で揺れるそれは、キラキラと輝いていた。

姐さんは、立ち止まらずに前に進んで欲しいと願っていた。
だから、ハヤトは姐さんのピアスを身に着けて、いつも一緒だと、同じ景色を見ているのだと、思いを受け継いだのだと思っていたに違いない。
それでも耐えきれなかったのか、それとも石が導いたのか。
ハヤトは姐さんを追いかけて逝ってしまった。強すぎる思いは、生死をも超えてしまうようだ。
俺が最後にそのピアスを見たのは、あの家を出る日だった。
心なしか、赤の輝きが薄れて黒ずんでいるような気がした。

そのあとピアスがどこに行ったのか、全然気にもしなかった。
そうか、姐さんの家族のもとにあったのか。
「五月さんが、姐さんが最後に身に着けていたものなのでと、ご遺族に……」
久しぶりに見たそのピアスは、最後に見たときよりも黒が強くなっているような気がした。
深く暗い沼の底に沈んでしまって、深い赤だということを忘れているようだ。
ピアスを持ち上げる。
一緒にステージに、とさっきの高橋くんの言葉を思い出す。
一緒にステージに行けば、また、あの深い赤の輝きに戻るのだろうか?
そうしたら、あのふたりは喜んでくれるのだろうか?
「いやいや」
そうじゃない。もう一度、一緒にてっぺんを目指そうじゃないか。
俺はそのピアスを耳に着けた。



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