第208期 #1

名探偵朝野十字の妖精課題

 私は妖精。妖精は実在するんだよ。普段は羽のついた小さな虫みたいにしてる。ティンカーベル知ってるよね? 私たちは気に入った人間を助けることがある。人を助けてなんの得がある? と人は問う。妖精が人を助けると幸せになれるんだよ。人が幸せだと思うことよりそれとは全然ちがうそれの千倍の幸せになれるんだよ。私たちは案外たくさんいるよ。きっと注意深くしていれば、あなたのそばにいる妖精に気づくよ。気が向けばあなたを助けてくれるよ。
 私はまだ人間界にそれほど詳しくないけど、すでに助けたいイケてる女の子を見つけたんだ。彼女は悪い男に誘拐監禁された。彼女を助けなきゃ。
 私は名探偵のところに行った。そこに彼の助手がやってきた。
「先輩。これは第二の桶川事件です」
 彼女は女子大生西野順子。埼玉県川越市に住んでるよ。彼女は女子だよ。それから……新之助が好き。
「説明してくれ」
「英田和郎はずっと藤原陽子さんにストーカーしてました。陽子さんが失踪したとき、警察はおざなりな捜査をし、彼を容疑者から外し、陽子さんは依然行方不明のままです。英田の父親は警察OBで与党の有力国会議員、埼玉県警は正義に目を背け権力に屈したのです」
「事件に関係する話だけしろ。要するに藤原陽子を見つければいいんだな。生きていようと死んでいようと」
「なぜそんなひどいことを言うんですか。良心はないの? 彼女を助けて!」
 名探偵は藤原陽子の自宅を訪れた。両親との挨拶もそこそこに、お悔やみの言葉もなく、理由の説明もなく、ただ陽子の部屋を見たいとだけ言い張った。それは彼女の部屋のベッドの下に隠されていたので、私はベッドの下に青く輝く粉末をつけた。名探偵はベッドの下を覗き込み、彼女の日記帳を見つけた。名探偵があるページを開いたとき、私はそのベージに青く輝く粉末をつけた。名探偵はそのページをじっと見つめて考え込む様子だった。
 名探偵は埼玉県のとある森に行った。私は樹木の幹に青く輝く粉末をつけて回った。それをたどって、名探偵は小屋を見つけた。その小屋の地下に藤原陽子が監禁されているのを発見した。
 埼玉県警の三笠警部がやってきた。
「お見事ですな、名探偵殿。なぜあそこに監禁されているとわかったんですか」
「私の手柄じゃない。妖精が知らせてくれたんだ」
「ワッハッハ! こりゃまたご謙遜ですな」
 名探偵が真実を語るとき、埼玉県警は常に理解できないのであった。



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