第206期 #7

名探偵朝野十字の事件簿:美貌の報酬

 近代法の授業を取っている私は、レポートの課題を、妻を殺したため服役中の著名な推理作家、関祐介に決めた。事件は1997年。まだ固定電話が主流の時代だった。私は何度も刑務所に通い長い手紙を受け取った。彼の主張は以下の通りだった。
 その日講演会を終え自宅に電話してこれから帰ると妻に告げたが、直後に弟から連絡があった。弟は家電修理店を経営しており、レトロで大型のステレオセットの修理を頼んでいたのだが、修理が終わったとのことで、弟の店に立ち寄りステレオセットを積んだトラックに乗せてもらって自宅に向かった。家につく直前に再度電話したら妻が出なかった。不審に思いガレージで荷物を降ろす弟を待たず玄関に向かったら鍵が掛かっていた。妻を名を呼びつつベランダから窓を割って入った。リビング、キッチンと妻を探して寝室に入ろうとしたら施錠されていた。台車にステレオセットを積んで弟がやってきたので、二人でドアに体当りして中に入った。妻は頭部を鈍器で殴られ死んでいた。部屋には裏庭への窓とドアがあったが、どちらも施錠されていた。私は妻を殺してない。
「裏庭へのドアは外から鍵を掛けられるの?」
 と新之助君が聞いた。
「うん」
「わかった。関祐介が裏口から入って奥さんを殺したあとで、寝室の前に戻って弟が来るのを待ってたんだよ」
 私は関祐介の大ファンなので納得できなかった。
「先輩はなんて?」
 先輩はなぜかいつも部屋を薄暗くしている。
「三つ質問しよう。妻殺害の動機はなにか。犯人にアリバイはあるか。犯人は誰か」
 それを聞きに来たのにコイツ何言ってんのと思ったが現役美人女子大生なのでぐっとこらえた。
「関祐介先生は奥さんを愛してました。以前奥さんが浮気したときそれを許し、男に手切れ金を払って奥さんを守った話は有名です。関祐介先生は絶対犯人じゃないです」
「犯人は弟だ。関祐介が電話したとき、妻は弟と一緒にいた。技術者である弟が電話に細工して、兄からの自宅への電話を彼女の携帯に転送させた。尻軽な兄の妻に不倫関係をバラすと言われた弟は逆上し、その場で彼女を鈍器で殴って殺害した。トラックに死体を積み込み、兄が来ると車で送ると言って兄の自宅に行った。兄が妻を探し回る間に死体を裏庭から運び込んだ。彼は逢引のために兄の妻から裏庭へのドアの合鍵を渡されていた」
 そのあと新之助君にお茶に誘われたけど、関祐介先生を犯人扱いしたので断った。



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