第204期 #8
片方はリハの後、謝ることが多くなった。
片方は今までと明らかに変わってきている。
で、ふたりで地下の防音部屋にこもることが多くなった。
なに?
「アイツら、なんかあった?」
「は?」
「いや、ハヤトと姐さん」
「え?!」とカズキはビックリした。まさか気付いてないはずはない。
「お前、他人に興味あったんだな」
ビックリしたのは、そっちかよ……。
「ハヤトがさぁ。もっと上に行きたい、って思ってたってことだよ」
もっと上に行きたい、か。
リビングのソファから立ち上がって、俺はカズキの横に移動した。
「ハヤト、どうしてそう思った?」
カズキはため息をついて、俺を見て持っていたペンを机に置いた。
「小さなステージによばれてたことあったじゃん、姐さん。あれ、見に行ったんだよ、ハヤトとふたりで」
カズキは話し出した。
「じっと見てるから、気になって聞いたの。したらさ、自分よりも姐さんのほうが俺が書く言葉を正確に伝えられているんじゃないかって言うの。自分じゃなくて、姐さんが歌った方がいいような気がしたって言うんだよ」
そんなわけないのに、ってカズキが苦笑いする。
それでも、ハヤトはカズキの書いた言葉を伝えきれてないって思ったらしい。
「どうしたら、もっと上手くなる? って俺にきくの、アイツ。俺、歌ったことねーのに。でもさ、決定的な違いはあって、ハヤト、馬鹿だからさ漢字読めねーじゃん。言葉の意味もわかんないみたいで。で、あえてカタカナで書いたりしているんだけど、そしたら意味が濁ってんなって思うの。それをさ、姐さんは割と正確にイメージしてくるわけ」
今のハヤトに、それができるようになったらもっと上に行けると思ったんだとか。
「それで、アイツ新聞スマホ片手に読んでんのか」
初めてハヤトが社会面を読んでいるのを見たとき、槍でも降るのかと思ったよね。
「で、なんでふたりでこもってんの?」
まさか乳繰り合っているということはないだろう。
「ハヤトは、姐さんが歌詞をモノにするまでの過程が知りたいんだと」
で、流行りの歌を姐さんに何度も歌わせているらしい。
「ふ〜ん」
そういって天井を見上げた俺にカズキは言った。
「お前ももっと好きなもの書けばいいと思うけど。遠慮しているんだろ? 違うんじゃないかって」
もしかしたら変わるタイミングなのかも、とカズキは再びペンを執った。
なんか、今までと違うスゲーものが出てくるような気がした。
俺も負けてられない。
もっと上へ。