第204期 #1
「指の太い人は鼻の穴がでかい。指の細い人は鼻の穴が小さい。人類はそうやって進化してきた」
「なぜですか」
「でなきゃ鼻をほじれないだろ」
「体が小さい人は手も鼻も小さいし、大きい人は手も鼻も大きい。それだけの話でしょ」
「手だけ大きくてやたら指が太いが体の小さい人はどうするのだ」
「そんな人、見たことありますか」
「見なくてもそんな人の鼻の穴はでかい。それがロジックだ。ロジックを信じ切る覚悟があるか否か。それが名探偵とその他大勢を分かつのだ」
「そんなことより私のさきほどの謝罪は受け入れてもらえたのでしょうか。先輩のものをなくしてしまいました」
先輩は持病をこじらせ入院していた。何度も電話がかかってきて見舞いに来いと言われ、その後経理課の私の上司に先輩から直接電話が入り、上司の命令で仕方なく見舞いに行くと近くの商店街の福引が今日なので自分に代わって福引を引いて来いと言われた。
今日は休日で商店街はとても賑いたくさんの人で混雑していた。ここはとても有名な商店街でしばしばテレビ局が取材に来る。実際なんということもなさそうな焼鳥屋の前でお笑い芸人がカメラに向かってレポートしているのを見かけた。
福引が当たって福袋をもらって帰ろうとすると、母親と娘らしき二人連れが困っている様子だった。
「5歳の息子とはぐれてしまったんです」
「手分けして探しましょう」
母親は娘にここで待つよう言い、商店街を東に向かった。私は福袋を娘に預け西に向かった。それらしき男の子を見つけて名前を聞くと「圭太」と答えた。圭太君を連れて戻ってくると、さきほどの場所には誰もおらず、先輩の福袋もなくなっていた。
「三つ質問しよう」
携帯したら先輩は言った。
「その母親は福引に当たったか。娘はいくつぐらいに見えたか。近くの電柱にスピーカーがついているか」
母親も私と同じ福引で当たった福袋を持っていた。娘は小学生くらいだった。電柱には拡声器のようなものがついていた。
「娘は一人残され心細くなり、福袋を二つとも持って母親のあとを追った。息子を見つけられなかった母親は娘とともに東側にとどまった。なぜなら福引抽選コーナーの東側に商店街のインフォメーションセンターがあることに気づいたからだ」
まもなく拡声器からアナウンスがあった。
「XX商店街インフォメーションセンターです。5歳の圭太君を探してくださった男性の方。センターでお母さまがお待ちです」