第201期 #1
私は普段縁のないシステム部門の部長に呼び出された。
「BI保守の大口案件があり恒常的にクライアントとの折衝が必要で困ってた。営業から彼が来た。非エンジニアに客先のDBサーバに入られるのは不安で仕方なかったが、一年滞ってどうにも原因がわからなくて別処理を作って間に合わせていた件を、ダメもとで調査してくれと頼んだら2週間で原因を突き止めた。どうやったのか、なぜそのデータが気になって調べたのか聞いたが理解できなかった。が、とにかく答を見つけてくれた」
彼が名探偵だからだ。そんなことは知っている。
「で、私にどうしろと?」
「彼が欠勤して連絡が取れない。来週にはクライアントとの面談があり来てもらわないと大変なことになる。社内で彼と話ができるのは君だけだそうだ。彼を探してくれ。新之助君、君が最後の希望だ」
部長は急に小声になって囁いた。
「彼から給料が安くて生活が苦しいとほのめかされた。意味がわからんが大きなトラブルに巻き込まれ多額の借金を背負ったのか。それなら全力で相談に乗る。そう伝えてくれ」
私は先輩の携帯に電話したが返事はなかった。先輩のアパートに寄ってインターフォンを何度か押したが返事はなかった。
ネットでSNSを調べたら、営業部門の女の子が先輩と「友達」だった。連絡したら、先輩に伝えてくれるとのことだったが、数日経っても返事がなかった。改めて連絡したら、その返事はこうだった。
「伝えたら、ふざけんなとか黙れ小娘とか。めちゃめちゃヘイトが返ってきて。一晩中何通も。ブロックしました。これ以上はごめんなさい」
経理課の上司からは、先輩を連れてくるまで出社しなくていいと言われた。夕方先輩のアパートの前で見張っていたら先輩が出てきたので後をつけると大戸屋に入った。私は隣に座った。
「会社に来てくださいよ」
「行くよ。でなきゃクビになっちゃうからね」
「なんで来ないんですか」
「体調不良だよ。グループウェアで連絡済みだよ」
「じゃあ明日から来るんですね」
「うん」
私は席を立った。先輩は私を振り返り言った。
「待ちたまえ。で、おれの今月の給与はいくらなの?」
「今月は7万円アップです。来月以降は前向きに検討中です」
「…………」
「先輩、今日言って明日からって訳にはいかないことぐらいわかるでしょ。あなたの部長はやれるだけのことをやってます」
先輩は軽くうなずくと、再び私に背を向け、五穀ごはんをほうばった。