第200期 #1

200

「…176……177…あっ!」
 カウントが止まり、全員が倒れこんだ。
「誰だよ、引っかかったの!」
 体育館横で何度となく聞いたセリフ。
 その懐かしいセリフにみんなが笑い出す。そう、こんな感じだったよね、大縄跳び――そんな顔をする。
「よし、もう一回!」
 その声に全員が反応した。いい動きだ。
「いくぞ…1…2…」
 そして、カウントがまたはじまった。
 ……卒業式の前日とは思えない光景だ。
 え? なんでそんなときに縄跳びしているのかって?
 いい質問だ。なぜぼくらが大縄跳びをしているのか、説明するとしよう。
 それは小四の秋。クラス一のお調子者、ケン太が休み時間にいったひと言がきっかけだった。
「ギネスに載ろうぜ」
 前の晩見たテレビの影響だろう。クラスでギネスブックに載ろうとケン太がいいだしたのだった。それ自体は、よくある休み時間の雑談だった。だが、タイミングというのは恐ろしい。たまたま、その話を担任が聞いてしまった。担任はケン太以上にお調子者だったから、
「縄跳びなら、いけんじゃね?」
 と話が進んだ。
 結果、有志での練習が始まった。最初は塾やクラブを理由に参加する仲間は少なく、五人だけだった。だからギネスに挑戦というより、放課後、ワイワイ集まって縄跳びをするみたいな感じになった。
 でも、それがよかった。
 ときどき練習に来る子や、遊びに来る子が増え、だんだん人が集まり、冬休み前にはクラス全員が参加するようになっていた。
 しかも、そこでいい記録がでた。
 こうなると狙いたくなるのがギネスだ。ぼくらは真剣に練習し、年明けにギネス認定員を呼び、その人の前で跳んだ。
 結果は――163回。記録に届かず、ぼくらは小五になり、クラス替えとともに大縄跳びを忘れた。
 それなのにケン太と担任が、今頃になって声をかけてきた。
「大縄跳びをしよう!」
 集まれるのは最後かもしれない。そういって、目標だった200回を達成しようと、二年前と同じ体育館横で跳びはじめたのだった。
「…198…199…200!」
 結果、ぼくらは放課後遅くまで残り、200回を跳んだ。それはもう、意地だった。
 大縄跳びの記録は更新されており、ギネスにならないとわかっていたけれど、それでも当時の目標を達成し、ぼくらは満足だった。
「おめでとう! 200回!」
 担任の言葉に、自然と拍手が起こった。
 確かに200回はギネスじゃない。
 でも、誇れる記録だ。



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