第199期 #10

お母さんの指、きれい

「チョコレート食べちゃった?」
「え?」
「ママのポシェットに入ってたチョコレート、食べちゃった?」
「二人でさっき食べちゃったじゃん」
「そうだったっけ?」
「そうよ」
 僕の、姪二人が、僕の隣に並んで座って話していた。
 二人は双子だった。女子高校生。
 僕は五十歳だった。
 今、僕たち親戚一同は、早死にした母親の三回忌のためにお寺に集まっていた。
 これから近くのレストランでご飯をみんなで食べるのだが、双子の父親が時間調整をミスってしまって、三十分の待機時間が生まれた。待機場所に、親切にお寺さんが、座敷を貸してくれた。
 双子が話していた。
「なんで人間はフィクションと現実を混同するんだと思う?」
「混同してるんじゃなくて、そもそも人間にはフィクションと現実の区別ができていないらしいよ」
「まさか」
「そうしないと宗教や物語が成り立たないじゃない。区別ができていないからこそ、キリストが復活する話とかを信じちゃうんでしょ」
 最近の子供は、好奇心の赴くままにネットで知識を漁るからなんだろうか、盗み聞きをしていて飽きない。
 双子は似ていたが区別はつく。子供は法事に制服を着てくるものだ。二人は学校が違ったから制服も違った。
 姉はセーラー服を着ている。妹はブレザーでズボンだった。
 姉が私に話しかけた。
「どうして叔父さんは結婚しなかったんですか?」
「タイミングがなかったからかな」
「タイミング?」
「さっきの君たちの話になぞらえれば、僕には結婚という物語を信じるきっかけがなかったのかなって」
 双子は、双子で目を見合わせて首をかしげた。

 私の姉、つまり双子の母親がやってきた。
 スマホの画面を私に見せた。
「お母さんの指、きれい」
 私たちの死んだ母親が、赤ん坊を胸に抱いている写真。
 母親の白い指が赤ん坊を支えていた。
 抱いているのは、双子の姉か妹か、どちらかなのだそうだ。
 抱いていた本人なら覚えていたかもしれないが、今となっては聞けない。分からない。
 私は言った。
「懐かしいな」
 いつの間にか双子もスマホの画面を覗きこんでいた。
「ほんとう、お祖母ちゃんの指、きれい」
 私は言った。
「小さな時にピアノを習っていたから、指が細かったんだよ」
 双子が言った。
「知らなかった」
「初めて聞いた」
 私の姉が、飽きれた顔をして言った。
「だってウソ。ピアノはやってない」
 双子が言った。
「そういうところだよ。叔父さんが結婚できないの」



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