第195期 #7

ポストアポカリプス

 バッティングセンターで友達と遊んだ。
 3セット、バットを振った。
 バットを振り抜く時、無心になれた。
 たったひとつの目的だけに向かって体を動かしている時ほど、楽なことはない。
 終わってから焼肉を食べた。
 友人が言った。
「マーマレードを作れって言ってたよな。確か誰かが」
「何の話?」
「憂鬱になったらマーマレードを作れってさ」
「本で読んだ話?」
「そう。思いつめた時には、目的のはっきりした単純作業をしろって」
 私は質問した。
「自分の経験と、友達の話してくれた友達の経験と、本で読んだ話、どれを一番信頼する?」
「知らんけど」
 私は先日、直属上司のミスをそのまた上司に報告して、直属上司を退職に追いやった。
 彼女にはまだ小さな子供がいたな。
 チクらないほうが良かったか。
 シングルマザーだった。
 考えは堂々めぐり、思考は魔物で、一度追いつかれれば心身ともに生き苦しい。
 友人が言った。
「おまえ、十年前に付き合っていた彼女がいたじゃん。年下の。浮気された。あの元上司、顔が似てるよ」
「復讐か?」
「うん、うん。人間って馬鹿だから、現実とか本質とか関係なくて、見た目って表面上のことだけで、仕返しをしたりするんだろう」
「表面だけで決めてしまうんなら、表面こそ本質なんじゃないのか?」
「ちいぽけな男だ」
「どういう意味だよ」
「意味がほしいか?」
「目ざわりだったよ。上司は嫌な記憶を思いださせた」
「それくらいで他人の人生を変えるか」
 私は、昔、元上司の顔に似たがめつい女と付き合って、時間と金を奪われた。
 今、私は結婚して心情的に安定していたはずだが、色恋の恨み憎しみは消えなかったみたいだ。
 私は言った。
「奥さんに買ってあげたゲーム、一緒にやるから帰るわ」
 私は先日、核戦争後のディストピアを舞台にした一人称視点シューティングゲームを奥さんにあげた。
 帰ってきてから、私はゲームしている奥さんに言った。
「楽しい?」
「楽しいよ、殺し一辺倒でストーリーないけど」
「物語ないの?」
「ほぼない。でも楽しい。ありがとう。日常のしがらみ忘れる」
「そのゲームと人生という名のゲーム、どっちが楽しい?」
「どうした? また思春期が来た?」
「うん、たぶん、大人には、分からない気分」
 私は、奥さんの顔を見ながら、昔の彼女と辞めさせた元上司の顔を思いうかべた。
 奥さんは二人に似ていない。
 奥さんは笑った。
「希望のない世界で人が殺し合う」



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