第195期 #3

それは多分、罪悪感かな。

 いつもの朝。

 私のアラームが煩く鳴って目が覚める。隣の、あなたもついでに目が覚める。もぞもぞ寝返りを打った後に短く唸って、顔をくしゃくしゃにさせていた。
 薄目を開いたあなたに、唐突に口走る。

「明さんと、セックスする夢見た」

 夢の輪郭はもうおぼろげだったけど、断片的に思い出すだけでもなんだか幸せな気分だった。

「欲求不満ちゃんやもんな」

 もたついた口調で、かすれかけの声がする。

「そうなんかな」
「うん」

 じんわり左側から伝わる体温を感じて、思わず笑みが溢れる。今日は目覚めがいいな、と直感した。
 ふと、また始まる微かな寝息に気がつく。起こして悪かったなと少しだけ気にしながら、隣に釣られるように布団を被り直して目を閉じた。

 暫くして、またアラームが鳴って、私だけ先に起き出した。慌ただしく準備を進める中、着替えていると今度は彼の携帯のアラームが聞こえる。止めても、時間が経てば何度かスヌーズで鳴り始め、また止めらる。
 メイクをしている頃にようやく、開ききってない目を擦りながらも彼はトイレに向かって起き出す。

「おはよー」
「おはよー……」

 化粧する私のお尻を普段通り撫でて通りながら、洗面所の向かいにあるトイレに滑り込んだ。
 トイレから出てくると横に並び、水だけでびじゃびじゃと雑に顔を洗う。

「どう? 風邪は治った?」

 タオルでゴシゴシ顔を擦っている彼に問う。

「んー……。どうやろねぇ、わからん」

 喉が痛いし、体がしんどいから風邪かもしれない、と言っていたので昨日の晩から風邪薬を渡していた。
 声に覇気がなく小さい、私は昨日のこともあって顔色を慎重に伺った。

 その時、今までに見せた事もないような悲しみを湛えた表情が浮かんでいるように見えた。はっきりとしない、浮かない視線。バツの悪そうにして、きちんとこちらを見ない。
 様子が気になったものの、化粧を終えた私はファンデーションのケースをパチンと閉じて定位置に戻す。

「じゃ、行ってきまーす」
「はーい、行ってらっしゃい」

 速足で階段を下りながら、私は昨日、明さんに「悪いこと」をしたんだ。と、ふと頭の中で振り返った。


――昨日のことだ。

「私は、浮気性だからね。だからね、しっかり明さんの事を確認しとかないとね。明さんの事こんなに好きなのにね、目移りしちゃうのが怖いからさ」

 後ろから抱きつたまま遠回しに、好きな人が出来そうになっていることを伝えたのだった。



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