第193期 #9

たこ焼きを食べながら

雨の激しい11月に、どうしても会いたい人がいた。子供の頃からの友達で、もう三十年にはなる。最近、仕事をリストラされたらしく、毎日テレビを見ている生活みたいだ。学生時代にはサッカー部に所属して輝いていた奴が、こんなふうになるとは思いもしなかった。あの頃は奴の方が上で、俺はその陰にと隠れて暮らしていた。いま思えば奴を上手く利用して、青春を生き残ったと言ってもいい。誰にでも、そんな奴はいるかも知れない。いや、いないかも知れない。でも何処か心苦しく感じるのは、年齢を重ねたからなのだろうか。十代の時には、嫉妬に似た殺意を覚えた事もあったのに、今では違う。友達の関係ってのは、二人以外には分かるまい。それどころか当人同士も分からず、その方が長く続いたりする。わたしはリストラされることも無く無難に生きてきたが、むしろ今の方が気持ちは楽にとなっている。青春に生き残れた私に出来ることは、奴に会いに行くことだろう。だから奴の好きな「たこ焼き」を買って、激しい雨の中を歩いた。友達の出来ることなんて、そんな無い。たこ焼きを買うぐらいしか。だから、その中に大きめのタコが入っていることを願った。奴のために。



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