第192期 #11

スカーフのゆれかた

 後輩が中国人の手下になっていた。中国人の手下になった大学の後輩。彼は僕が紹介したバイトも辞めて消息を絶っていた。いろんな人に心配をかけていたけど彼は誰にも行き先を告げずにいなくなった。
 久しぶりに見た彼はゲーセンの前で怪しい小物を売っていた。それは妖しくひらひらしていた。
 僕たちは部活の帰りだった。他の部員は彼をみとめるとはっとして歩みを止めた。そしてきまずくてそいつの脇をすっと通り抜ける。後輩はそんな僕らを覚えているのかどうかわからない、なにも話しかけてこないでにやにやしていた。
 ゲーセンの中では高校生のカップルがいる。中国人の手下は彼らにあやしい商品を売り付けようとする。後輩はにやりと売り文句を垂れ、頭の悪そうなカップルはきゃっきゃっと喜んで買っていった。
 僕は彼に話しかける。
「お前なにしてんの?」
「みてわかりません?」
「わかんないよ」
 後輩はいつまでもにやにやしていた。
「お前いろんな人に迷惑かけてんだぞ。わかってんのか」
「知りませんよそんなこと」
 彼は心の平安を得たかのように笑っていた。手にあやしさを持って。
「静かにしていることが美徳だと思うなら土にでもなってしまえばいいんですよ」
 彼は誰に向けるでもなくそう言い残し去っていった。
 雨が降っていた。駅前で高校の時の友達に会った。彼はまだ高校生をやってた。あのときと変わらない背丈で僕を見下ろしていた。彼女がいて幸せそうだった。僕らは過去について少し話し、別れた。帰りに彼が僕にスカーフをくれた。きっと傘を持たない僕を憐れんだのだ。
 僕はそいつからスカーフをもらって駅の階段を上っていると滑って転んでしまった。その場面を大学のゼミの女の子たちに写真を撮られ、彼女たちは笑った。僕も笑った。スカーフなら造作もないことだった。



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