第190期 #9
自分の正体がバレた時、必ず見るように言われていた封筒を開けるとこう書いてあった。
「この手紙を読んでいるということは、あなたは取り返しのつかないミスを犯したということですが、いまさら後悔しても仕方ありません。まずあなたは、重大なミスにより現行の任務が終了したことを自覚し、すみやかに次のプログラムへ移行する必要があります。また、現行任務の後処理等は、当局の専門班によって行われるため、あなたはこれ以上本件に関わることは許されません……」
私はこの後、更生施設に連れて行かれ、再生プログラムというものを三年受けて再び仕事に復帰した。しかし今度の仕事は、正体がバレてはいけない任務遂行者と呼ばれるものではなく、その人間を監視する方の仕事だった。とはいえ監視役も秘密の仕事なのだから、一般の人に正体がバレることは避けなければならない。しかし、監視役は基本的に現地の人々と親しく関わることがないため、そもそも関心を向けられることがないのだ。なので任務遂行者と比べると、正体がバレることを常に心配する必要がない分、精神的には楽な仕事だと言える。
しかし監視役を始めて五年過ぎたある時、担当していた任務遂行者の少女が自分で正体をバラすという事件が起こった。彼女は、生きて帰れる保証のない地獄のような場所へ向うことになったのだが、家族や友人に黙ったまま行くのは悲しいので、事情を説明するために正体をバラしたのだった。本来であれば正体がバレた時点で任務終了となるのだが、回収班が到着する前に旅立ってしまったので任務はそのまま続行されることになった。当然、彼女の監視役である私は責任を問われ、再び更生施設へ入ることになった。
私はその後、仕事復帰と施設送りを何度か繰り返した。最終的には施設内の清掃をする仕事に落ち着いたのだが、またミスをしたらどうなるのか分からない。自分の正体をバラしたあの少女も、任務終了後に仕事を転々とさせられて、結局は私と同じ仕事をすることになった。特に責任が重い仕事ではないので、私も彼女もつかの間の安らぎを感じていたのだが、ある時、私たち二人に再び任務遂行者へ復帰する命令が出された。しかし私と彼女は施設から逃げ出したたため、追いかけてくる連中とたまに戦うことになったのだが、正体がバレないようにしている彼らを見てると、昔の自分たちみたいで少しかわいそうだねと最近二人でよく話すことがある。