第19期 #22
ノーミュージックノーライフとはタワーレコードの宣伝だけれどもともかく全くその通りなので、あたしはラジオとステレオラジカセのスイッチを同時に入れ、さらにはテレビのスイッチも入れるから、あなたはギターを。お願い、ギターを! ギターを!
「オウケイ、解った」
ぎゃんがんぎゃがぎゃがぎゃががぎゃががが。
「オウケイよ、とても良い!」
ぎゃががががんがががぎぎぎぎぎゃかががが。
「難しい質問をします」
大音量のテレビからはアナウンサーが普段通り、歌うような調子で喋るのが聞こえる。
「そしてそのあとで、簡単な質問を。良いですか?」
そして飛行機が落ちる!
窓の外の青空に凄まじい放物線を残して、飛行機が落ちる!
落ちる! 落ちる!
落ちる!
爆発音。全てを引き裂くような爆発音。これを求めていた、というような凄まじい爆発音。あたしはうっとりと立ち尽くし、辺りを見渡す。
焼け跡では、ロールケーキがくるくるとロール、回っています。ショートケーキも、くるくると回っています。もちろんモンブランもザッハトルテも例外無く、くるくると回っています。
薄ピンクのハートマークに銀の小さなスプーンを入れてすくい取り、子供達は嬉しそうに笑いながらそれを食べていく。
「随分と大きな飛行機だったね。随分と立派な飛行機だった。何人乗っていただろうね。とても大きな飛行機だった。そして、とても凄まじい音だった」
「うん、でもね。全て嘘だったの。ごめん、あたし嘘をついていたわ。全て、全部、丸ごと嘘だったの。
だからお仕置きをして? あたし、あなた無しじゃあもういられないの。あなた無しじゃあ駄目なの。だからお仕置きをして。いっぱい、お仕置きをして。そしてあなたと、いつまでも一緒にいさせて」
「オウケイ、解った」
裸にされて縛られて、あたしの白い身体に鞭を百発くれた後、彼はそこら辺に落ちている折れた木材を利用してギロチンを作り始めた。
あたしの首は絞め木にしっかりとはめられて、息も出来ないまま、ギロチンの刃は容赦無く落とされる。
ギロチンは破壊し、身体も、意味も、時代も、全てを破壊し、切断し、ガラクタだけを残し、去る。
街の真ん中に取り残された首の無いあたし達は、東京タワーの前でにっこりと笑い合った。
気が付けば無音。夜明け間も無い空の下には、カラスの鳴き声が微かに聞こえるだけ。
あたし達は抱き合い、ようやく初めてのキスを交わす。