第186期 #1
何もかも手放した。
最初にはそう思った。
部活を辞めてから、何もすることがなくなって自然にぼーっとすることが増えた。虚無感、それが私をふわふわと曖昧な気持ちにしてしまうのだ。
私は、何も努力してきたことがなかった。勉強や、運動、他にも色々な事において、それなりにこなすことが出来た。だからかもしれない。心の何処かで自分に慢心していたのだ。自分は出来るから、必要以上に頑張る必要はないのだ、と。
決定的だったのは、部室に入ろうと思ったとき、聞こえてきた会話だった。
「○○ってさ、速いけど絶対朝練とか出ないし、必要以上しないよね、練習」
「ね、なんでも出来ますって顔してるし。努力してるうちら、バカにしてる感じ」
そういって笑う部活仲間だと思っていた彼女らが、自分の中で知らない人になっていく気がした。いつもにこにこと喋っていたはずの彼女たちは、私の中にいなくなってしまっていた。
ドアが開けられずに、そのままそこから立ち去る。手が冷たくなっていくのがわかる。今、彼女たちと会って、ちゃんとしたいつもの笑顔を見せることが出来るとは思えなかった。
図星だった。何処かでバカにしていたのだ、努力を重ねても私に劣る彼女らを。
恥ずかしかった。それを見透かされていたことに。
それから、しばらく部活に出られなくて無断欠席を繰り返した。そんなことをするのは初めてで、彼女らの言葉が頭を反芻していたことも相まってお腹が痛くて、心なんていうものは実際頭の中に存在しているものだとわかっているはずなのに胸も痛かった。
慢心していた自分が愚かで恥ずかしくて。他人を不快にさせていたことにも申し訳なくて。
無断欠席を重ねていたこともあり、更に部活に行くのが辛くて部活は辞めた。最後に挨拶に行った部室には、もう私の居場所はなくて。寂しくなる、と言ってくれたけれど、笑顔のその裏で「いなくて清々する」と言われていることを想像してしまって、うまく笑えなかった。
部活を辞めてからは、心は軽くなったけれど、あまり人と関わることを止めた。もともと人間関係の構築は得意ではなかったし、なんとなく笑顔の裏が映るようで、人が怖くなったからだ。
手元には何もなくなった。
実感したときに、胸がきゅっと痛くなって、自嘲気味に笑いが零れる。
自業自得、その言葉は今の私の為にある。