第183期 #1

あふれだす恋愛衝動

恥ずかしい話ではあるが、僕はクラスの子が好きになった。名前はちせ、という。横顔がとても素敵で、あと胸の大きい子だ。正直、交際したいと考えている。
このことを友人に話すと、百パーセントの確率で聞かれることがある。「お前。顔と胸だけで人を好きになるのか?」と。ちせはクラスであまり目立つタイプではない。だから自然と、あまり彼女との接点のない奴らは表面的な部分で彼女を認識する。僕はそう言われればもちろん反論する。そんなわけはない。僕はあの子の笑顔も好きだし、少し大雑把な性格も魅力的だ、と。
しかし考えてみると、やはり僕は顔がかわいく胸の大きいちせが好きだということに気づいた。気づいてしまった。でも、認めたくはなかった。なぜなら、認めてしまうと、僕が外見だけで判断する(あと体目的の下劣野郎)になってしまうからだ。
考えてみると、もしちせの内面がそのまんまで、見た目が不細工になって貧乳になったとしたら、多分僕はちせに恋愛感情を抱くことはないと思う。それが悲しいのだ! 本当に好きなのであれば、「君がおばあちゃんになっても、君を愛し続ける」とか言えるんだろうけど、ちせには一生今の中学生のままでいてほしいし、おばあちゃんに姿なんて想像したくない。一体僕は、どうやってちせを愛せばいいんだろうと途方に暮れた。
そんな僕は近所に住んでいる祖父の家に行った。祖父は僕の祖母と結婚してもう五十年以上経つが、毎日仲良く散歩している。僕はおじいちゃんに、異性と長く付き合っていくコツを聞いた。すると祖父は「変に取り繕わなくていいんだ。いずれそういうのはバレるからな。案外、最初から本能むき出しの方が良いんだぞ。例えば、ばあちゃんはな、今はもう皺くちゃだけどな、若いころは凄く美人でな、夜の方も……」それ以上は聞きたくなかったけど聞いた。身内でそういう話はなかなかきつかった。そして祖父は最後に言った。「そういう、本当に何が好きかなんてのはいずれ分かる。わしはまだ分かっとらんが、もうじき分かるじゃろ」僕はその言葉に胸を打たれた。そして祖父は「思いをぶつけろ」と言い、その日も祖母と散歩に行った。
分かった。僕の思いをストレートにぶつければ、きっとちせは応えてくれる。僕はちせを放課後、体育館裏に呼び出していった。

「君の横顔と……いや、どっちかというと、胸が好きだ! 僕と付き合ってください!」
もちろん振られた。俺は下衆野郎。



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