第180期 #2

おれのおじさん

おれのおじさんは模型をつくるのが趣味だ。
小さいころに、たくさん見せてもらった。
ずらりとならんだ戦闘機、日本のは漢字で二文字の綺麗ななまえをしていて、外国のはなめらかなかたちをして動物のなまえをもらったかっこいいやつだった。戦艦もあって、おじさんはほんとはもっと大きいのがほしいんだけどといって笑った。そのほかにもジオラマやらなにやら。
畳の部屋にたくさん並べてあるのだった。
そのおじさんがこのまえ死んだ、心臓の発作だということだった、おれはもうずいぶん会っていなかったから、驚いたけれど悲しむことはなかった。
おじさんは会うたびにクイズをおれに出した。模型に関係するクイズもあれば、まったく関係のないものもあった。おじさんが出すクイズは幼いおれにとってそこそこに難しく、わからない問題が続くことも珍しくなかった。おれは考えるふりをしたけど、もうそのときはクイズを楽しんではいないのだった。おじさんの出題はうまいものではなかった。だけど、おれをかまってやろうというあたたかさはあった。
ついに結婚しなかったおじさん。おれの父を兄に持ってしまったおじさん。父はかなしんでいるのだろうか。おれが語れることはあまりない。
少なくともいえることは、おれに甥っ子ができたとしてもクイズを出してかまうことはしないだろう、ということ、そして模型を見るたびにおれは、あの畳の部屋の枯れ草のようなにおいを思い出している、ということ。
喪服をクロゼットの奥にしまう。コレクションは、父によって売るか捨てるかされた。そのなかで一つだけ、小さな戦闘機をおれは持ち帰ってきた。なつかしさではなかった。ただなんとなく、すべてを処分することに抵抗があった。それはおじさんのものだったから。
夕日が窓から射し込んでいる。おれは模型もクロゼットにぶちこんで戸を閉めた。自分で持ち帰ったというのに、それをできるだけ視界に入れたくなかった。
夕日が窓から射し込んでいる。おれは晩飯をつくらなくてはならなかった。



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