第178期 #10
こんにちは。
わたしはだぶん幽霊です。
なぜそう思うのかというと、誰かに話しかけても反応がありませんし、すぐ目の前にわたしがいても全く気づかれないからです。もともと人とあまり話すほうではなかったので、最初はそれほど気になりませんでした。しかし、何をしても相手の反応がないので、その理由をあれこれ考えているうちに、自分は幽霊になったのではないかと思ったわけです。だとすると、わたしはすでに死んでいることになりますが、自由に移動できるのは今いる公園の中だけなので、自分の死を確認することもできません。ただ、服装はコートとマフラーのままなので、もし死んでしまったのなら、そのときの季節はたぶん冬だったのでしょう。
わたしは普段、公園のブランコに腰かけたり、桜の木に登って辺りを眺めたりしているのですが、何の目的も与えられず過ごしているせいか、時間が流れているのか止まっているのか、よく分からなくなることがあります。もちろん、昼と夜が変わったり、人が公園を歩いたりするという変化はありますが、わたしには、それがまるで映画のように見えてしまって、目の前で本当の時間が流れているのかどうか分からなくなるのです。二時間の映画なら、それを観た人にとっては二時間という時間が過ぎたことになりますが、映画の中では何年も、何十年も過ぎていることだってあります。当然、それは映画なので、その中で何十年過ぎようと何の不思議もないのですが、そう思えるのは、「これは現実ではなくただの映画なのだ」という安心があるからでしょう。
そんなことを考えながらいつものように過ごしていると、わたしは公園のベンチに手帳が置いてあるのを見つけました。きっとこれは、昨日このベンチに座っていた高校生が忘れていったものでしょう。わたしは手帳を開き、付属のペンで「こんにちは」と試しに書いてみました。すると、紙の上にちゃんと文字が書けているのです。幽霊のようなわたしの書いた文字なんて普通の人には見えないかもしれませんが、もし手帳を開いたあなたにこの文章が読めたとしたら、わたしの存在を知ってもらえるかもしれません。あるいは、ただの悪戯だと思われるのがオチかもしれませんが、もし何かを伝えることができれば、あなたとわたしは、その瞬間だけでも同じ時間を過ごしたことになるのです。それはきっと、一方的に流れるだけの、映画の中の時間とは違うはずですから。