第177期 #12

痺れ

夢の中、どんよりした、鈍い重みを肩に感じる気がした次の瞬間、まぶたを閉じたまま覚醒したのを感じる。何かの音が聞こえる。

寝る前に少しだけ開けておいたらしい窓から、遠くを走る自動車のような音が入ってきていた。まぶたを開ける。あたりはまだ暗い。仰向けに寝ている。動けない。

金縛りだろうか。いや違う。正確には動けないのではない。首と、肩から腕の部分が「動かない」のだ。手の感覚もない。両腕がない?

まばたきは、できる。月が出ているかは知らないが、真っ暗ではない薄暗がりの中、天井が見える。グルグル動かせるので眼球は動く。バタバタと両足がベッドを叩く音も聞こえる。「いやだ」と言ってみて、口と声帯の動きを確認する。「やめてくれ」。声に迫力はないものの、目立った異常はなさそうだ。鼻息の勢いも調整できる。ただ、首と肩から先が動かない。うまく起き上がれない。カラダを回転させようとしてもダメだ。なんなんだ。

少し経って、自分が「万歳」のような格好らしいと判断した。そして、肩から先は痺れているのだと感じる。長い間、正座していたあとや、あぐらをかいていた後の感覚と同じだと気がつく。一体、寝ている間にどうやったら万歳をするのだろうか。片腕なら、寝返りか何かの拍子に、遠心力だか何かで、頭部を越えていくかもしれない。しかし両腕がきちんと(ただ肉眼で確認したわけではないから不確かだが)万歳をしているようだ。

強烈な不快感が襲ってきた。ぞわぞわ、ざわざわと、「痺れ」が切れるあの感覚だ。肩の周辺が動かないだけで動作の調整がほとんど効かないカラダを、なんとか揺すってみる。徐々に動くようになってくる。血液だか何かの流れを速めようとする。さらに動くように変化していく。すーっと、無感覚の水面に感覚の波紋が広がっていく。

もう少しで完全に動くようになると感じた次の瞬間、手首の動きを妨げる何かを感じる。細いひもか、いや、ネクタイのような滑らかな素材で構成する物体が、両手首の動きを制限している。この状況はなんなんだ。思い出そうとするとアタマが痛んだ。恐怖が襲ってきて、汗が勢いよく出てくる。肩から腕が動くようになってきた。カラダを揺すってみる。右隣り、少し離れた所に、裸の女がカラダを丸めて寝ていた。何もかけていない。小さな寝息が聞こえる。

まぶたを閉じても、すぐには夢の中に戻れなかった。



Copyright © 2017 マーシャ・ウェイン / 編集: 短編