第176期 #7
「君を嫌いになったんじゃない。価値観の違いってやつさ。僕と君では合わないんだよ。だから、さよならだ」
そう言って昨日、男は女に別れを告げた。告げられた女のつぶらな瞳には涙が浮かび、その視界はぼやけた。どこをどうやって帰ってきたのか、ショックで女は覚えていない。気がつくと自宅のベッドで、女は今日という日を迎えていた。
女の瞳から、また一筋の涙がこぼれた。新しい日を迎えても、遠ざかっていった男の背中を思い出してしまうのだ。
いったい何度目だろう。別れを告げられたのは。女は隠すように両手で顔を覆った。自分の何がいけないのだろう。自分のどこが彼に気に入らなかったのだろう。考えるけれど、答えは出てこない。
「キミとは住む世界が違うんだ」
ある男は淡々と悟りきった表情で、女に別れを告げた。
「ごめん、他に好きな子がいるんだ」
ある男は目をそむけて、はっきりと女に断った。
「…………萌が足りない」
ある男は呟くように絞り出して、問うた女と離れた。
今まで好きになった男性から投げられた数々の言葉。思い出して女は唇を噛み締めた。負けるものか。たかが男の一人や十人や百人にフラレたぐらい。また新しい恋をすればいい。きっと私を愛してくれる人はいる。そう気を取り直して女は涙をぬぐう。
「今度こそ、私を認めてくれる相手と巡り会えますように」
女は祈るように呟くと、身支度を整え始めた。向かう場所はいつもの場所。今までの彼氏と出会ったあの街だ。
その呪われた街の名は、秋葉原といった。