第173期 #1

知らない教室への手紙

みなさんへ


こんにちは。
きょうは雪ですね。
みなさんは、初雪を踏んだり、雪だるまを作ったり、雪合戦をしましたか?
もしくは、列車が大幅に遅れたり、道路が泥だらけで、憂鬱な気分になりましたか?
わたしはそのありようを伝聞でしか存じません。楽しいも不便も、羨ましい。
雪はそと。
わたしは丸くなっています。
好きでこうしているわけではありません。
わたしは生まれつき体温が低いです。体温調節機能が適切に働きません。
温度が逃げてしまいます。
「いつも寒い」程度ならよかった。
低体温症は致命傷になります。
知ってる?
体温があまり下がると、身体は悪寒に痙攣しなくなります。そうすると、危ない。
わたしはずっと震えています。
わたしはずっと暖かい部屋でぬくぬくしています。
わたしはよく食べ、よく飲みます。発熱するため。
そうしなければ、たとえば雪の朝、わたしは死ぬ。死は壁一枚へだてた隣人なんです。
寒い、寒い、身体が凍るようにしんからつめたい。気を抜けば凍りついてゆく。
比喩でなく。
わたしは、温室でしか生きられません。肺炎を併発すると危ない。
温泉に入ってみたい。海水浴してみたい。はやくよくなりたい。
わたしの外見は「健常者」です。
五体満足、容貌も、おつむも、みなさんと変わらない。
でもこの季節、わたしはほとんどまったく外出できません。誰のせいでもないです。でも、どうしても、隔離されてる、もしくは、わたし自身が自分を隔離しているふうに感じる。
……なにも変わらないのになー。
って、劣等感があります。
一方で、わたしは、文字通り「ぬくぬく」暮らしている「ふてえやつ」と思われる?
そのことに怯えています。
わかってもらえないかもしれません。
本当に悪寒と痙攣とで不自由な身体と年来つきあうこの痛み。
「わかる」と言われたくありません。
ひどいこと言ってごめんなさい。
お願いがあります。みなさんの暮らしを教えてください。
語るにたりないと感じられるような、みなさんの毎日。
なにを見ましたか。だれとお会いしましたか。どこへ行きましたか。
学校に通い、友達と、どんなお話をしましたか。
ほんとうに他愛ないことがいいです。
みなさんは、初雪を踏んだり、雪だるまを作ったり、雪合戦をしましたか?



病室から
○○



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