第171期 #3

イエロー・ゴッド

 続きは神のお遊びからはじまった。
 二種類のカード。手札は三枚。白白白、黒黒黒、白黒黒、白白黒。組み合わせは四通り。一回に一枚、または同じ色のカードであれば二枚を出せる。同色の場合はドロー。もしくは、枚数の多い方の勝ち。白は黒に勝つ。黒二枚に対して白一枚では負け。勝った方がチップを一枚、相手のチップを全て奪った方が勝ち。
 白は優遇されている。いわば、ホワイト・ファーストだ。ただ、白には労働能力が欠乏。労働できないのではなく、労働する意思がないのである。要は他人を働かせて利益を得るということだ。一方、黒は生まれつき身体能力に優れるが、虐げられた存在。白の利益に対しての労働を担わされているのである。だから、いつ暴動が起こってもおかしくはない。いや、小さなイザコザはいつも何処かで起こっている。対岸の火事のように。

 二匹の神が酒を酌み交わしながらお遊びに興じている。本当は少し飽き飽きしているのであるが、そんなことお構いなし、どんなゲームだって所詮そんなものである。石造りの椅子とテーブル。それを丸く囲む石の手すりの上には召使いのサル。それぞれの神の後ろにそれぞれのサルが鎮座。背後のサルは神の手札を覗く。ルールはひとつ。ポーカーフェイスさ。見ざる、それとも言わざる。神は動じない。所詮ゲームなのであるから。
「さぁ、楽しもう。おい、酒をたのむ」
 右の神が左手を上げ、指を鳴らす。
「へーい」
 ポーカーフェイスを崩さないサルは従順だ。

「それは単純な理屈からだよ。神が人間を創ったのではない。開発や発明は、より有効な手段を得るためにある。持ち得なかった能力を得ることで便利な生活を手に入れる。このことは理解できるね。もちろん、異論はないはずだ。そう、神に劣る人間をわざわざ神が創るというのはナンセンスなんだよ。神が人間を創ったのではない。人間が神という存在を創造しただけなのだよ」
 右の召使いザルは酒を運びながら滔々と述べる。
 左の召使いザルは「聞かざる、聞かざる」と耳を塞ぐ。

 黒の駒と白の駒の彫刻はすり減り、滑らかな表面が光に反射している。この対戦が終わったら次はカードゲームだ。そう考えている左の神にサルは問う。
「ゴッドの肌は何故に黄色いのか」
「……サルの分際で」
 左の神はそう吐きすて、酒の入った杯を干した。
 黄のカードはジョーカー、絶対的な存在。
「さぁ、楽しもう。おい、酒をたのむ」



Copyright © 2016 岩西 健治 / 編集: 短編