第169期 #16
私がフォローして居るツイッターの短歌や俳句を読んで居ると何か自分でフォローした以上、責任を持って読んでいきたいと思うが、半分も読めて居ないような気がする。
くちづけを離せば清き頬のあたり零るるものあり油のごとく 小野茂樹「羊曇離散」
「くちづけ」と言う単語にハッとする。「油のごとく」は涙を油に譬えて居るのだろうか。頬のあたりをこぼれるので、涙のような気もするが、何か宗教的な背景まで邪推?してしまう。この人はキリスト教徒だったのだろうかとふと思ってしまった。
しろじろと母が前掛け羽織の前 中村草田男「火の島」
「羽織」はいろいろな季節に顔を出しますね。冬羽織。夏羽織。冬羽織は袷(あわせ)羽織、茶羽織(ちゃばおり)、半纏(はんてん)、綿入(めんいれ)羽織、皮羽織など。皮羽織だと火事装束としても、戦(いくさ)装束としても用いられたようだ。軍羽織ですね。鹿や馬や牛の皮などをなめして作ったそうです。夏羽織だと単(ひとえ)羽織、薄羽織、麻(あさ)羽織、絽羽織(ろばおり)などか。いずれも絽、麻、紗などの透けた素材ですね。夏らしく涼しそうな感じです。
ツイッターだけでは無くて、ネット全体を渉猟して居ると、この句の作者中村草田男の「火の島」と言う句集は、「火の鳥」とも出て居り、「火の島」なのか「火の鳥」なのかが分からなくなる。何にしてもこの句では「母」と言う単語もキーワードであろうか。
たちさきし軍衣も共に包む如(ごと)白き病衣はうちかけられつ 近藤芳美「早春歌」
「たちさきし」が分からない。「裁(た)つ」「裂(さ)く」であろうか。何にしても「軍衣」と「病衣」の異同が眩しいような気がすす。軍医と軍人を考えれば、同質性が想像されるが、傷痍軍人を考えれば、異質性が際立つような気がして来た。いずれにしても同じ戦場に立つ戦友と言う観点からは同質性の方より大きいような気もするが、いろいろと他にも、視点が蔵されて居る様に感じられる。
ふるさとの春暁にある厠かな 中村草田男「長子」
中村草田男の第一句集ですね、「長子」は。季語は「春暁」。現代俳句協会のサイトから「春暁」の句をピックアップしてみました。
あかね雲春曙のイナバウアー 谷岡武城
さつくりと紅浅間てふ春の暁 伊藤眠
ねむる子に北の春暁すみれ色 成田千空
ふるさとの春暁にある厠かな 中村草田男
歴史について思いを致し、私はしばし瞑目することに成ったのでした。終了