第168期 #17

クマモト地震

 最初の地震を起こしたのはクミで、二日後の地震を起こしたのはミクです。
 最初の地震が起こるまえ、クミとミクはお母さんのお腹の中にいました。でも、自分たちのことを「クミ」と「ミク」という、二人の、別々の子どもではなく、まだ名前もない一人の子どもだと思っていました。なにしろお腹の中には、「あなたたちはふたごですよ」と教えてくれるひとがいるわけではないのですから、自分たちのことを一人だと勘違いしても無理はありません。背中に虫がとまっていることや、地球が回っていることだって、ほかの誰かに教えてもらわないと分からないでしょう。

「クミは生まれたくなかったの、だから地震を起こしたの」とクミは言います。
「ミクはクミに会いたかったの、だから地震を起こしたの」とミクは言います。

 クミはお母さんのお腹の中から押し出されるとき、もう一人の自分を見ました。自分はお腹の中にちゃんといるのだから、狭い穴の中をぎゅうぎゅう進んでいる自分は夢の中の自分なのだろうと。そして夢が終われば、暗いお腹の中でまた眠れるのだろうと思っていました。
 しかし夢が終わった場所は、ずいぶん騒々しくて、ひとが沢山いました。
 ここはどこなの、とクミがたずねると、腰に手を当てながらタバコを吸っている女が振り向いて、ここはクマモトさと答えました。
「あなたは私のお母さんなの?」
「違うよ。あたしはクマモトの看護師さ。でもさっきの地震で病院壊れちゃったからな」
「ねえ、ここは夢の中なの? 私は、あの場所にまた帰れるの?」
「ここはクマモト。あんたの名前はクミ。帰るのは無理」

 一方のミクは、もう一人の自分が穴から出ていったとき、お母さんのお腹の中にいる自分は誰なのだろうと思いました。お母さんにそのことをたずねても、フフフと笑って返すばかり。
 もしかしたら、穴から出ていった自分が本当の自分で、お腹の中にいる自分は嘘の自分かもしれない。きっと穴の向こうへ行けば、そのことを確かめることができるだろう。でも本当のことが分かった瞬間に、嘘の自分は消えてしまうかもしれない……。
 そんな恐ろしいこと考えていると、穴の向こうから声が聞こえました。
「おーい、ミクー。そこにはもういられないよー」
「あなたはだーれー」
「私はクミで、あなたはミクなのー」
 穴の向こうから白い光が見えます。
「ここは夢じゃなくてクマモトよー。寒くて酷いところだから早く会いにきてよー!」



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