第161期 #6

Death and Alive

 路上に転がっている死体に蠅が群がっている。誰もそれを片付けたりはしない。なぜならば、その死体を片付けても、すぐに別の死体がそこに転がり込んでくるだけだからだ。
 そんな町に滞在して2日目になる。外国人専用のホテルは文明が残っているようで、蛇口を捻れば水が出る。ホテルの1階のレストランで朝食。スクランブルエッグにケチャップをかけていた時だった。突然、レストランが粉々になった。

 そんな夢を見た。朝だった。起きたのは相変わらずのホテル。妙にリアルな夢だったと顔を洗いながら思う。爆風で飛んできた煉瓦か何かが自分の頭に直撃し、自分の脳みそがスクランブルエッグのようになった感触が後頭部に残っている。予知夢という言葉がある。朝飯は、ゲンを担いで外で食べることにした。
 ホテルを出て、2ブロックほど歩いたところで、後方から爆発音が響いた。後ろを振り返ると、ホテルの場所から埃が舞い上がり、路上へと砂嵐のように広がってきていた。

 正夢って本当にあるのだと路上脇で驚いていたら、俺の前に車が急停車した。車と肩がぶつかるスレスレだった。車の運転席の窓がゆっくりと開き、そこから拳銃が出てきた。銃口は俺に向けられている。「Hand Up」と聞こえた。

 銃を向けられたのは初めてだったが、意外と俺は冷静であった。どちらの手を挙げるように指示されているのか、俺は考えあぐねていたからだ。「Hands Up」と解釈して、両手を挙げればよいのだろうか。それとも、脇に拳銃でも吊るしていないかをこの男は確認したいのだろうか?
 俺の結論が出る前に、俺の胸に2発、銃弾が飛んできた。俺は、路上に転がる死体の1つとなった。

 そんな夢を見た。朝だった。起きたのは相変わらずのホテル。妙にリアルな夢だったと顔を洗いながら思う。1発の銃弾は体を貫通せず、体内に残っている感覚が残っていた。俺は急いでホテルを出て、先ほどとは逆方向の道へと進む。衛生的に問題のないパン屋にたどり着く直前だった。反対方向から歩いてきた男が懐からナイフを俺に突きつける。
「財布を出せ」
「時計と指輪を外せ」
「靴を脱げ」
「ズボンを脱げ」
「What ?」と俺は問い返した。
「黙って言うことを聞け」

 俺は文字通り、身包み剥がされた。男は俺から奪った物を抱えて逃げていった。俺は股間を両手で隠し、ホテルへと走る。生きている。それ以外、もうどうでも良かった。



Copyright © 2016 池田 瑛 / 編集: 短編