第159期 #6

静かなる演説

街の中には誰もいない。既に、独裁者の演説は終わってしまったから。この国では、一人の考えで全てが決められて行く。反発を覚える者もいるが、そこに充足感を覚える者もいる。街角には指導者のポスターが至るところに貼られて、彼の顔を知らない人はいない。しかし独裁者を選んだのは、この国の人々だ。まるでジョークの様に始まった旋風は、いつの間にか民衆の気持ちを集めるようになった。そこから独裁までは、一本道。この国は非常に安定していて、地盤も固い。他国からの報道関係者は思うのだ。ここまで安定して完成されたものを、壊す意味なの等、どこにあるのかと。この国の国民は独裁者を愛しているし、ついていきたいと本気で思っているた。統制された情報の中で生きることの喜びは、国民の瞳を見ればたしかにとわかる。彼らは独裁者を、確かに求めているみたいである。



Copyright © 2015 戸板 / 編集: 短編