第159期 #13

ペルソナ

 12月という月は探偵にとって嫌な月だ。

 第1の理由が、浮気調査の急増だ。新年という区切りが、疑惑に白黒を付けようと決意させるのだろう。だが、12月に依頼を受けた調査は、往々にして1月まで調査が伸びる。奥さんの誕生日と結婚記念日でも無い月に、高額のプレゼントを買う男は、ほぼ黒だ。しかし、12月は奥さんへのクリスマスプレゼントである可能性も残り、25日以降の事後確認ということになる。だが、クリスマスを過ぎれば年末年始で、依頼主と連絡を非常に取り難い。結果として、新年を迎えてから「こんなの貰いました?」と確認をしなきゃならなくなる。また、調査相手が忘年会などで飲みに行く機会も多く、尾行回数も増える。ペルソナを剥ぎ取るのも楽じゃ無い。

 第2が、ガキの依頼だ。探偵事務所なんて、普通は小学生が足を踏み入れるような場所じゃない。しかし、名探偵が活躍するアニメが人気なせいか、勘違いするガキは急増するばかりだ。

 事務所に来た小学生の依頼は「親がサンタクロースであることを突き止めてください」だ。サンタの存在を証明してくださいと依頼してこない当たり、世も末だと思う。

 俺は、そういう依頼には、こう答えるようにしている。

「お前の親はトナカイを飼っているのか?」と。これまでの経験上、答えは「いいえ」だ。

「じゃあ、話は簡単だ。別人だ」と答える。だが、最近のガキは、生意気にも納得なんてしない。そしたら俺は、言ってやるのだ。

「お前は、本気で、お前の親が、ずっとお前の親だと思っていたのか?」と。

 戸惑うガキ。

「お前の親が、会社に行っている時、お前の親ではないんだよ。ただの会社員なんだよ。社会の歯車なんだよ! お前の親が、おまえの前で親であるのは、お前を愛しているからなんだよ」

「お前の幸せを願い、お前が寝静まったころ、そっとプレゼントをお前の枕元に置く。その瞬間、そいつは、お前の親じゃなくて、サンタなんだよ。そして次の日の朝、何事もなかったように、プレゼントを貰って喜んでいるお前を、新聞読みながらこっそり眺めて居るのがお前の親なんだよ。まったくの別人だ、分かったか?」

 俺が、そう吠えると、小学生は依頼料も払うのを忘れて、事務所から逃げ出していく。とんだ、ただ働きだ。

 どうせ、俺の話した意味がわかるようになるのは、ガキが親となった時だろう。

 12月は、つまらない仕事が多い。だが、嫌ではないこともある。



Copyright © 2015 池田 瑛 / 編集: 短編