第158期 #1

マンモス解凍して頂戴

「寒いわ。解凍して頂戴」
「冷凍食品だってそれを美味しく頂戴するには三、四分を要するんだ。君を覆うこのとんでもない氷塊を溶かすなんて僕個人の力では一生かかってもできるかどうかだ。第一電子レンジに入らない」
「寒いわ。貴方の発想。だったら大きな大きな電子レンジを作って頂戴。個人で無理なら友人知人寄せ集めればいいじゃない。どうして一人で賄おうとするの?視野の狭さを自覚して頂戴」
「そうだね。僕にはとてもじゃないがそんな発明は不可能だ。これまでの人生で電子レンジの構造や仕組みさえ理解出来ていないし意識もしていない。だから代わりにそれを知った人物を連れてくるというのは至極当然なやり方ではある。だけれど僕はどうもチームワークが苦手でね。もともと人に指示して代わりを頼むくらいなら自分でやるよと言ってしまう。よくそれで失敗もするのだけれど何故かな?なかなか治らないんだ」
「貴方はプライドが高いのよ。とてもね。だけれど実際私をここから出すことさえ出来やしないちっぽけな力よ。出来なければ諦める、そうして逃げてきた人生の終わりに貴方は何を思うかしら。別に世界を変えようだとまで言わなくても構わないわ。でも目の前で凍えるマンモス一頭くらい救ってみなさいよ。それがプライドを持つということなんじゃないの?捨てるだけの決意に何の意味があるの?ファッションてやつかしら?意地をみせてみなさいよ」
「待ってくれ。説教はよしてくれよ。僕だって後悔していないわけじゃないんだ。もっと出来たはず、上手くやれたはずなんだ」
「だから其処よ。出来たはずならやりなさい。結局やる前に諦めているだけじゃない。あとでうじうじ能書きたれて誤魔化してるだけじゃない。いいかげん寒すぎて口も動かないわ。早く。早く解凍して頂戴」
「君を解凍してあげたらどうなる?」
「寒くなくなるわ。私がね」
「それだけ?」
「そうね。それだけよ」
「少し待っていてくれ。人を呼んでくる」
「少しね。また私は十年待つのかしら?次に会う時はもう少しマシなお話ができるようになっいてね」
「……じゃあ」

静寂

「……さようなら……出来なくてもいいのよ。『わかった』と答えてくれるだけでいいの……」



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