第157期 #4
乱れた世を正すため、立ち上がったのは犬、猿、キジの三銃士。残虐非道の鬼を退治に道なき道をかき分けて、駈けまわること幾千里。蓄えもなく支援もなく、空腹をおぼえたのは五日前だが、今ではそれすら気づかぬほどに、疲れ果て弱り果てていたところ、大きな桃が突如目の前に現れた。喜び勇んで飛びつかんばかりの野良三匹。ただしそれは絵に描いた餅、ならぬ、のぼりに描いた桃にすぎず、何の役にも立ちはしない。実にうまそうに描いてあるだけ罪深い。のぼりを手にしたぼんくらは桃太郎という名前らしい。仕方がないから無邪気なふりして何とか食べ物をひっぱり出さねば。犬が男に話しかけようとすると、猿がそでを引いて耳打ちする。兄貴、兄貴、こんな奴に遠慮はいらない。食べ物を奪い取ってしまおう。正義のためだ、問題はない。キジも強くうなずいたかと思えば、どこにそんな体力が残っていたのか、空高く舞い上がって臨戦態勢をとる。犬はいさめて言うには、民衆の支持を失ってはついに成功することはないだろうと、さめざめと涙を流す。ああ、何ということだろう。犬畜生にも血筋の誇りがあり、屈辱を受け入れるには身の切られる思いがするのだ。あまりにも高貴な犬のその涙が、猿とキジの意気を削いだ。もはや犬に任すよりない。そう思ってためいきをつき、草場のかげに隠れて息を殺して様子をうかがう。犬なのに猫なで声とはこれ如何に。乞食も同然に食べ物をねだる犬畜生。桃太郎と名乗る男は土を丸めたようなあまりにも粗末なだんごをこちらへ寄越した。猿もキジも犬の兄貴の顔色がさっと一瞬変わるのをしっかりと両の眼で見た。しかし何事もなきがごとくに礼を述べ、いっしょに歩き出した犬と男。顔を見合わす猿とキジ。今度は猿が男のもとへ、さっきのだんごを俺にもくれと、恥を忍んで素知らぬ顔で。桃太郎という男、おそらく阿呆に違いない。口元のしまらないぼんやり顔でにこにこと笑い、クソをまるめたみたいなだんごを差し出す。腹が減ってはいくさは出来ぬ。両手で受け取りクソをむさぼる猿一匹。犬もうなずいてはいるものの、何を考えているのか分からない。残されたキジ、誇り高きその心。乞食のような真似をなぜできようか。兄貴たちの醜態にも我慢がならぬ。犬、猿、桃太郎の頭のはるか上、ぎっとにらみつけながら、何度も何度も旋回するが、空腹には耐えられぬ。やがて精も根もつき果てて、一行の目前にどたりと落下す。