第153期 #10

銀座、仁坐、隼坐

梅雨入り間近の銀座は着物も衣替えの季節。3年前、ロンドンでオリンピックが行われた時期、この6月は日本からメデイアの顧客が大挙、ロンドン競技場の放送、メデイアセンターへの機材輸送でごった返していた。通常、放送センターは国際展示場、ビックサイトのような会場にそれぞれエリアが割り振られ、その場所場所にスタジオやオフィスを作製し、終了すればすべて壊す方法を取るのであるが、ロンドン五輪の場合、施設そのものを簡単に作り上げ、終了後すべて解体するため、大きなは搬入口やエレベーターなど特別仕様の設備は全くなく、そのため、搬入、搬出は混雑を極め、すべての輸送業者は段取りをいかにスムースに行うか、管理監督が求められていた。7月中旬から開催であるが1か月前から乗り込む顧客のため、当社も現地入りし、充分な打ち合わせをしたのだが、それはそれ、欧州の気質というか、なかなかうまくいかず、警備も厳しいことも相まって、混乱を極めたのである。
吉田は顧客と銀座の娘たちとママを引き連れ、鉄板焼肉のレストランで、初夏の彩りを深めた、花々を鏤めた熱い俎板にシェフを取り囲んだのであった。と突然、車エビの油のかたまりが一人の女子の着物に向かってパーンと激しい音とともにはじけた。着物は無事だったが、前掛けの胸元に油が広がった。「申し訳ございません」シェフが謝ると「大丈夫です」と女子の大きな声、と突然、吉田の携帯が鳴り、事務所からロンドンの搬入がうまくいかず、本日の現地午前の打ち合わせで困っているいるとの事。直接、現地顧客から吉田に電話が入るとのこと。
「申し訳ございません、現在、大変混雑しておりまして、時間が掛かっております、もうしばらくご辛抱願います」しかし顧客からは大丈夫ですとは返ってこなかった。しかし、ちょうど、一緒に食事をしていたのがこの顧客の技術系のトップの方、吉田が食事中に困惑しているのを見て、あとで懲らしめておいたとの事。本人が大丈夫ですといったかどうかは知らないが、その夜はいろいろな意味で盛り上がった。夏の五輪とワールドカップサッカーは2年ごとに開催するが、今年は女子のワールドカップが前回優勝を受け、期待されカナダで開催となる。7月中旬には連続優勝を掛け、なでしこが歓喜に踊るチャンピオンのセレモニーがまた、見られるか。銀座のなでしこもさらに彩りを増し、浴衣、夏のコスプレのシーズンで盛り上がるのである。



Copyright © 2015 Gene Yosh (吉田 仁) / 編集: 短編