第152期 #15

弾丸オンデマンド

 淫乱しか取り柄がないからAV会社に就職したはいいんだけど、周りは学歴しか誇れるもののない頭でっかちのトンカチ男ばかり。一人試しにちょっと誘惑してみたら飛び上がってひっくり返って死んでしまった。情けないったらない。
 企画会議でもそう。普通のAVはもう売れないとばかりに変なアイデアばかり持ってくるけど、こいつらの考えるイロモノなんか過去の劣化コピーでしかないんだよ。第一自分でも良いと思ってないものを持ってきてるのがミエミエでそこにとにかく腹が立つ。AVのプレゼンしてるくせにアナル、やら騎乗位、やらの単語を口にする時だけ少し声が小さくなるやつがいて、てめえ中学生かよチンポ付いてんのか! と手を伸ばしたら本当に何もついてなくてこっちがびっくり。一部の人間は退化が進んでるとは聞いてたけどまさかここまでとはと思った。あの指先が階段を踏み外したような感覚は今でも忘れられない。
 誰にでも遠慮なく、かつ公平に意見をぶつけるあたしの評判は社長の耳にも入り、「君にメガホンを握ってほしい」なんて言われて。これ監督やってほしいって意味だったらしいんだけど、あたし淫乱でバカだからシモい意味で捉えてしまって、「一番上の人間がつまんないこと言わないでよ!」って思いっきり蹴っちゃった。うずくまって悶絶してる社長を見ながらだんだん事の重大さが分かってきて、ごめんなさいだか許してくださいだかわーだか叫びながらなぜか蹴った右足の方のミュールだけそこに脱ぎ捨てて、とにかく遠くへと思って中野から奥多摩?まで行って帰れなくなってメソメソ泣いてたらいきなり白いハイエースに押し込められて、これさすがにヤバいかもとなったんだけどよく見たら乗ってたやつら大体知り合いで、わー偶然ーとかみんなでゲラゲラ笑いながらお菓子食べたりお酒飲んだりしてそのうち仲良くなった人となんやかんやあって結婚して子ども二人産んだところでパッタリと性欲がなくなってただのバカになっちゃった。今は夫婦で登山にはまってます。



Copyright © 2015 伊吹ようめい / 編集: 短編