第151期 #2

恋ノ味

私は恋を知らない。
いや、知ろうとしていないだけ・・・。
そんな私は恋に恋していた時期もあった。
そんな恋も終わってしまったけれど、今までとは違う自分がそこにはいた。
恋ができない私に1冊の本が目に入った。
それは、俗世間に言う【恋愛小説】だった。
その本は友達がいらないと私にくれたものだった。
私はどうせ何も変わらないただの小説だろう、そう思い読み始めた。
でもその想いとは裏腹に私はどんどん話の内容へとのめり込まれていた。
そして作者のあとがきに溜め込んでいた涙が一気に込み上げ、外へと流れ落ちて行った。
作者の伝えたい思い、恋という感情、人の存在その全てを180度回転して見えた話だった。
私の思っていた・・・いや、考えていた恋とは違った。
この物語は主人公が死にバッドエンドかと思いきや残された人々が前を向き進めたといういい意味で騙されたハッピーエンドだった。
こういう恋愛のあり方があったのかと私は改めて考え込んでしまった。
私もこういう恋がしたい。そう思う時もあったがそれは結局夢のまま現実にはあり得ないと決め込んでいたが現実でもあり得る恋物語もあったのだと初めての感情に少しの間浸っていた。
私は普段泣かないと思っていたのはどうやら間違えていたようだ。
泣かないのではない、泣けなかったのだ。
この本のように人の心を動かせる話を読んでこなかった訳でもない、ただ感情移入していなかったのだ。
身近にはありえない話ばかりだったからだろう。
恋だけでなく人間そのものの感情を理解できなくなっていたのだ。
私は、読み終わった本を置きその場を離れた。
きっとこれからは世界の価値観が変わるだろう。
明日にはどんな人と出会いどんな人と別れるか・・・。
世界はこんなにも残酷で悲しく時に楽しい。
それは恋も同じだったようだ。
楽しいだけでなく時に残酷で胸が痛くなる。
“嫉妬”という恋愛特有の感情でその人の想いは大きく変わる。
だから、恋愛は面白く残酷なんだ。
私は窓から顔を出して言った。
「ありがとう。」
恋は甘く苦い味の木の実でした。



Copyright © 2015 月見里 姫槊 / 編集: 短編