第15期 #11

真夜中のケーキ

 夜中に目を覚ますと喉が渇いていたので台所へ行き冷蔵庫を開けた。いつの間に買ってきたのか、中に一つだけケーキが置いてあった。いちごのショートケーキだ。花柄の皿の上に乗せられ、上からラップを被せられて。朝起きた時も帰ってきた時もケーキはなかった。
 よく晴れた土曜、午後からの映画デートをすっぽかされ、一人で行くのも嫌なのですることがなくなりしょうがないのでプールで思いきって五千メートル程泳ぎ、帰りがけに駅前でコーヒーを飲み、家に帰って部屋のベッドで本を読みながらいつの間にか眠ってしまった。起きると辺りは真っ暗で枕元にあった携帯電話の時計を見ると二時十四分。いったい何時間眠っていたのか見当もつかない。だいたい眠った時間が定かではない。
 冷蔵庫の中のケーキを目にした途端、空腹感が、水脈を掘り当てた瞬間に溢れる水のように、沸き上がってきた。最後に口にしたのがコーヒーで、食事と呼べるものは泳ぎに行く前に食べたロールパンにハムとトマトときゅうりを挟んでマヨネーズをぬったもの二つ。腹が減っている。でもいくら空腹だからといって、夜中に糖分脂質ともにたっぷりでカロリーの高いケーキを食べるのは良くない。せっかくスポーツクラブに入会して食事と運動のバランスを保っているのだ。最近痩せたんじゃない?と言われるようにもなってきた。これっきり、と思うこともできるが一度やってしまうと次もやってしまう気がする。悪循環。やはりケーキはあきらめよう。
 しかしやはり腹が減っている。この空腹を埋めるために何かを食べまくれば、ケーキを食べた以上にカロリーを摂取するに違いない。
 ふとしたことから生活のリズムを狂わしてしまうような時はいつもそうなのだが、今回も過ぎてしまったことをネチネチと思い返しては自分に嫌気が差す、他人のせいにする。あの時なぜ眠ってしまったのだろう。なぜプールであんなにはりきって泳いでしまったのだろう。だいたいあいつがデートをすっぽかしさえしなければ、今頃はレニー・ゼルウィガーの夢でもみていたのだ。ああ。
 思い直してとにかく欲望を満たし、もう一度眠ってしまおうと思う。カロリーのことは忘れようと思う。ケーキに合わせてミルクティーをいれる。
 
 翌朝、母親の大声で目を覚ます。
 「あんた二日も眠っててまだ起きないの?誕生日のケーキだけはちゃんと食べてぇ」
 枕元の携帯電話の日付を見る。ああ。



Copyright © 2003 マーシャ・ウェイン / 編集: 短編